覚え書:「書評:球技の誕生 松井 良明 著」、『東京新聞』2015年07月19日(日)付。
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球技の誕生 松井 良明 著
2015年7月19日
◆民族の独自性が顕著
[評者]陣野俊史=評論家
スペインのプロサッカーチームにアスレティック・ビルバオがある。このチーム、百年以上もの間、選手はバスク人しかいなかった。凄(すご)いことだ。世界最高峰のリーグのひとつで、ある民族に限定した運営方針を貫くことは容易ではない。
バスクには何かある。サッカーファンの常識だ。そんな中、この本を読んだ。
著者は、イングランドを含む連合王国としての英国を中心にヨーロッパのスポーツを研究してきた。本書では、オランダやベルギー、フランス北部、そしてバスク地方にまでフィールドワークの範囲は広がっている。ほとんどが著者によって撮影された豊富な写真と図解が、その主張をより説得的なものにしている。
では、主張とは何か。ズバリ、球技の始源である。いったい球技はいつ、どこで始まったのか…。遡(さかのぼ)れば遡るほど起源は曖昧になり、輪郭はぼやけていくが、著者は見事に整理している。
その過程で二つのことが浮かび上がる。帝国主義が世界に球技を伝播(でんぱ)してきたという歴史と、そうした世界化に抗していまなお各地で民族のアイデンティティに根ざした独自のスポーツが展開されている事実だ。とりわけバスクのペロタ・マノ。掌(てのひら)で硬球を打ち合う勇猛な球技である。実に多種多様で独特の球技の世界が、裏側からアスレティック・ビルバオの強さを支えているのかもしれない。
(平凡社・3024円)
まつい・よしあき 1964年生まれ。スポーツ史家。著書『近代スポーツの誕生』。
◆もう1冊
吉田文久著『フットボールの原点』(創文企画)。サッカー、ラグビーの歴史や民俗を考証しゲームの楽しみ方を紹介。
−−「書評:球技の誕生 松井 良明 著」、『東京新聞』2015年07月19日(日)付。
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http://www.tokyo-np.co.jp/article/book/shohyo/list/CK2015071902000178.html