覚え書:「終戦詔書と日本政治 義命と時運の相克 [著]老川祥一」、『朝日新聞』2015年07月19日(日)付。

Resize3153

        • -

終戦詔書と日本政治 義命と時運の相克 [著]老川祥一
[評者]原武史(明治学院大学教授・政治思想史)  [掲載]2015年07月19日   [ジャンル]歴史 社会 

玉音放送の草稿修正箇所に注目

 1945年8月15日の玉音放送は、天皇自身が詔書を読み上げることで儒教的な「天子」として振る舞おうとするものだった。だからこそ、陽明学者の安岡正篤(まさひろ)は「義命ノ存スル所」という言葉にこだわった。降伏は、天皇自身の良心が命ずるところでなければならなかった。
 だが、閣議では言葉が難解すぎるという理由で、「時運ノ趨(おもむ)ク所」に修正される。安岡によれば、これだと風の吹き回しで降伏することになり、天子の言葉ではなくなってしまう。究極の支配者は時間となり、天皇もまた時間の流れには逆らえなかったという言葉が、終戦詔書のなかに織り込まれたのである。
 詔書の草稿を丹念に調べ、この修正箇所に注目した著者の眼力は高く評価されよう。著者も引用する丸山眞男に言わせれば、これこそが「なりゆき」の論理に基づく政治といえる。本書が対象とする近現代に限らず、広く日本の政治を考えるうえで重要なポイントを提供していよう。
    ◇
 中央公論新社・3024円
    −−「終戦詔書と日本政治 義命と時運の相克 [著]老川祥一」、『朝日新聞』2015年07月19日(日)付。

        • -





玉音放送の草稿修正箇所に注目|好書好日








Resize3146


終戦詔書と日本政治 - 義命と時運の相克
老川 祥一
中央公論新社
売り上げランキング: 15,159