覚え書:「【書く人】常識疑う訓練をしよう『生き延びるための作文教室』 早稲田大教授 石原 千秋さん(59)」、『東京新聞』2015年08月30日(日)付。

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【書く人】

常識疑う訓練をしよう『生き延びるための作文教室』 早稲田大教授 石原 千秋さん(59)

2015年8月30日


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 学校の課題として出される作文や読書感想文は、悩みの種だ。「自由に何でも書いていい」と言われても、それは建前でしかない。道徳的な枠内に収まった文章でなければ、教師に受け入れられない。息苦しい学校空間で、どうやって「個性的に見える作文」を書けばいいのか。その方法を伝授する一冊だ。
 「国文学科の大学一年生の導入教育として、基礎演習をしています。この授業をすると、高校三年生までにどういう教育を受けてきたかが、ほぼ分かる。四年生で卒業論文を自由に書かせるようになるためには、相当の訓練が必要です。最初は鬼軍曹ですよ」
 夏目漱石をはじめとする近代日本文学を専門に、三十年以上、大学で教えてきた。その経験をもとにした本書は、自身の「学校論」の集大成でもある。
 一年生が授業で質問に答える時、よく「これは私の考えですけれども」と前置きするという。「『先生の気に入る答えじゃないかもしれないけれども、いいですか』という弁解なんです。それだけ先生の顔色を見ながら勉強してきている。これはかわいそうです。他者に見られるという意識をプラスに転じてほしい。たたかれても前に出るファイティングポーズを、作文の書き方を通じて教えてあげたいと思いました」
 本の中で「作文とはウソをつくことである」「二項対立を使う」「『ふつうは〜しかし』という構成で世の常識に少し異議を唱える」など「個性的な作文に見える方法」につながる思考法を具体的に記した。「ケータイ小説を以前分析した時、『愛のないセックスは体が汚れる』とか、あまりに古風で道徳的なのに驚いた。世の中を疑うには訓練が必要なんだと気づいた。その訓練に作文を位置付けたかった」
 「中学生以上、大人まで」を読者に想定した「14歳の世渡り術」シリーズの一冊。大人が読んでも面白いし、役に立つ。
 「この本で書いたのは、社会がAだったら反Aを書いてみなさいということです。これは本当の第一歩。次は非Aです。例えば、ウォークマンが世に出たとき、対立するものがまったくない新しい商品だった。Aならざる選択肢をどのくらい自分の中に用意できるか。そこが社会人になってからの勝負です」
 河出書房新社・一四〇四円。 (石井敬)
    −−「【書く人】常識疑う訓練をしよう『生き延びるための作文教室』 早稲田大教授 石原 千秋さん(59)」、『東京新聞』2015年08月30日(日)付。

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