覚え書:「今週の本棚:佐藤優・評 『知る、見守る、ときどき助ける モンテッソーリ流 「自分でできる子」の育て方』=神成美輝・著、百枝義雄・監修」、『毎日新聞』2015年09月06日(日)付。
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今週の本棚:佐藤優・評 『知る、見守る、ときどき助ける モンテッソーリ流 「自分でできる子」の育て方』=神成美輝・著、百枝義雄・監修
毎日新聞 2015年09月06日 東京朝刊
◆『知る、見守る、ときどき助ける モンテッソーリ流 「自分でできる子」の育て方』
(日本実業出版社・1512円)
◇褒められ好きの大人にしないため
著者の神成美輝(かんなりみき)氏は、モンテッソーリ教育の第一人者である。マリア・モンテッソーリ(1870−1952年)は、医師で独自の幼児教育法を実践し、確立した。ローマ大学医学部を卒後、「精神病院で知的障がいを持つ幼児の治療教育」で成果をあげた。<(彼女は、)その時、知的機能に障がいを持っているといわれる子どもたちが、小さなパン屑(くず)を一生懸命集めている姿を見て、そこに知性的な活動があることに気がつきました。子どもの世界には、大人とは違った感覚、学びがある。子どもは大人とは全く違う世界を生きているということを発見し、それを広く子どもの教育に生かすようになったのです>。幼児時代にモンテッソーリ教育を受けた人の中からは、アマゾンの創設者ジェフ・ベゾス、グーグルの共同創立者であるセルゲイ・ブリンとラリー・ペイジ、ウィキペディアの創設者ジミー・ウェールズなどユニークな人々が生まれている。
モンテッソーリ教育では、子どもの「敏感期」に注目する。
<「敏感期」、聞き慣れない言葉だと思います。でも、これが「子どもがぐんぐん伸びる秘密」を握っているのです。敏感期とは、
・ある目的のために
・ある時にだけ
・何かに対して
・非常に強く反応する
時期のことです。
ちょっと分かりにくいかもしれないので、子どもの例で見てみましょう。
敏感期の時期は長く、子ども時代全般を通してのものですが、本書では0−6歳の敏感期に焦点を当てていきます。なぜなら、ママたちを特に悩ませるのが2歳台が中心である「イヤイヤ期」と「敏感期」が重なった時だからです。
それぞれの年齢で「敏感になる」対象は違います。例えば2歳では「習慣にこだわる」子が多く見られます。これは「同じことを同じようにやらないと気がすまない」という時期です>
本書では、敏感期の子どもがとる秩序、運動、社会的行動、言語に関する行為について詳しく説明している。
子どもを過剰に褒めないようにするという指摘も興味深い。
<トイレトレーニングなどで、できたらご褒美、というのも考えものです。それ自体が目的となってしまうと、ご褒美がないと頑張れない子になってしまうからです。
同じ理由で、ほめすぎるというのも問題です。ほめられること自体がご褒美になり、「ほめられたいから何かする」というふうに考えるようになるからです>
外務省のエリート官僚には、「褒められるのが好きで、叱られるのが大嫌い」というタイプが多い。それだから、政治家が恫〓(どうかつ)と褒賞を使い分けると、外交専門家としての矜持(きょうじ)を捨てて、褒められるために権力者の言うなりになってしまう。将来、子どもを褒められ好きの大人にしないためにもこの教育は重要と思った。
子どもの内在的論理を大人に理解可能な言語で説明しているのが、本書の最大の特徴だ。幼児教育と社会人教育には連続している面もある。それは、他者の固有性を理解することだ。その前提として、一人一人の人間が自らの固有性を自覚する必要がある。外交、国際政治における他者を認識する能力を磨く上でも、モンテッソーリ教育の考え方が有益だ。
−−「今週の本棚:佐藤優・評 『知る、見守る、ときどき助ける モンテッソーリ流 「自分でできる子」の育て方』=神成美輝・著、百枝義雄・監修」、『毎日新聞』2015年09月06日(日)付。
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http://mainichi.jp/shimen/news/20150906ddm015070053000c.html