覚え書:「難民 世界と私たち:島国根性でやっていけるのか 緒方貞子・元国連難民高等弁務官」、『朝日新聞』2015年09月24日(木)付。

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難民 世界と私たち:島国根性でやっていけるのか 緒方貞子・元国連難民高等弁務官
2015年09月24日

(写真キャプション)緒方貞子氏=東京都新宿区、いずれも天田充佳撮影

 国連難民高等弁務官事務所UNHCR)のトップとして、世界の難民問題に取り組んだ緒方貞子氏(88)。国際社会がシリアなどの難民問題に直面するなか、難民の受け入れに消極的な日本の現状に苦言を呈し、「積極的平和主義」のあり方を問うた。▼1面参照

 ――日本の難民受け入れをどう考えていますか。

 「物足りない、の一言です。特に人道的なこういう事件(シリアなどからの大量難民)が起こったときに『まだか』という感じですよね。日本は、非常に安全管理がやかましいから。リスクなしに良いことなんてできませんよ」

 「簡単に言えば、難民受け入れがものすごく厳しいですよ。私が(難民高等弁務官だったのが)2000年までで、今、15年でしょう。変わっていないみたいですよ、残念ながら」

 ――シリア情勢で、日本がすべきことは何ですか。

 「日本を目指して逃げて来る人は少ないんですよ。だけど、(日本にたどり着いた人については)もうちょっと面倒をみてあげてもよいんじゃないかと思います」

    ■ ■ ■

  ――日本が難民受け入れに消極的である根本的な理由は何だと思いますか。

 「長い間、島国を守っていくということだけで来たからでしょう。島国根性的なことは変わっていないと思いますよ。だけど国際化が進んで、非常に国際協力が発達したなかでは、前と同じ島国根性でやっていけるんでしょうか」

 ――日本の難民認定制度はどうあるべきですか。

 「外国は難民条約に基づいて審査するというのはベースになっているけれど、人道的な配慮とか政治的な問題とか、非常に多様な原因に基づいてやっている。だけど日本はなかなか厳しい。私は難民高等弁務官のとき非常に苦労しました」

 「日本の法務官は、厳しい法律的な視点で(認定審査を)するんですね。日本の法務システムそのものが厳しい。人道的な考え方というものを、教育とかでもっと広めないとダメですよ。私の時代と変わっていないというのは情けないことだと思いますけどね」

 ――シリアからはこれまで約60人の難民申請があったそうですが、これまで認められたのは3人です。

 「日本のシリア情勢に対する無知じゃないの。全然知らないからですよ」

 ――法務省難民認定制度の見直しを含めた、新しい出入国管理基本計画を出しました。

 「本当ですか? 本当ですかと聞いたのは、どこが本当に変わったのかと。特定できませんでしたけど」

    ■ ■ ■

  ――最近出版された回顧録「聞き書 緒方貞子回顧録」では「日本国内の問題意識と、国際社会の動向との開きが一度ならずあると感じることがあった」と指摘しています。

 「一度ならずなんてもんじゃないですよ。だけど、私が弁務官をしているころは、いろんなことをしてあげようという気持ちは(日本側に)今よりあった。今はかなり自信たっぷりの国になったと感じますね。思いやりが減ったんですよ」

 ――回顧録で「日本は、父祖の時代よりも外に開かれ、多様性に富み、国際社会で責任ある行動を取れる国になったのであろうか」とも自問していました。

 「今でも『あろうか』ですよ。石油とかいろんなこともあって中東などへの関心は増えてきたけれど、中東にどれだけ援助しているのか。特にそこに飛び込んでやろうとはしていない」

 ――日本の世界との関わりや国際貢献で言えば、日本政府は今、「積極的平和主義」と言っています。

 「積極的平和主義をしようとしたら、そのためにどういう犠牲を払う用意があるか、というのをほとんど聞かないでしょ。だから、お言葉だけというふうに私は受け止めています」

 ――どういうものが積極的平和主義と考えますか。

 「例えば、難民の受け入れは積極的平和主義の一部ですよ。本当に困っている人たちに対してね。それから開発援助も底辺に届くようなものをどれだけやるのか。それが積極的ですよ。難民の受け入れに積極性を見いださなければ、積極的平和主義というものがあるとは思えないと言っていたと、書いて下さい」

    ■ ■ ■

  ――国連平和維持活動(PKO)はどう見ていますか。

 「PKOについては、私は(自衛隊の派遣に)相当期待していました。だけど、危ないところにはお出しになりませんよ」

 ――犠牲が出る可能性をきちんと議論したうえで、ということですか。

 「どのくらいの犠牲を払う用意があるかということについて、もうちょっとはっきりお考えになる必要があるんじゃないですか。そういう議論をおっしゃらないもんね。おっしゃれないかもしれない。今の日本の考え方は、みんな『犠牲はない』と。だけど積極的平和主義はやると。そういう矛盾の中で暮らしているんじゃないですか」

 ――途上国援助(ODA)は今、戦略的活用とか日本経済に資する援助とか「国益」が言われます。

 「国際益と国益のバランスが常にODAにとって大事です。もう一つ、ODAはこちらが言い出すんじゃなくて、どのくらいの需要が出てきたのかに対して、合わせていかないといけないでしょ。でもそういう考え方はやや薄いんじゃないの。供給ベースでやっていると思います。需要ベースでやったらもっと増やさないといけませんよ」

 (聞き手・大島隆、今村優莉

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 おがた・さだこ カリフォルニア大バークリー校で博士号(政治学)。上智大教授などを経て、91年から00年まで国連難民高等弁務官。03年から12年まで国際協力機構(JICA)理事長を務めた。現在はJICA特別フェロー。

 ■日本の審査、条約を厳格解釈 昨年申請5千人、認定わずか11人

 日本でも難民認定の申請者は増え、昨年は5千人に達した。だが、認定数はわずか11人。人道的な配慮での在留許可も110人にとどまる。

 難民条約は、難民を「人種、宗教、国籍、特定の社会的集団の構成員、政治的意見」を理由に迫害された人と定めている。日本は1970年代後半からインドシナ難民約1万1千人を受け入れたこともあったが、難民認定審査については、欧州などと比べると、条約を厳格に解釈する傾向がある。

 今月、法務省が発表した難民認定制度の運用見直しでは、紛争から逃れた人々の在留を「待避機会」という考え方で認める方向を打ち出したものの、「難民条約の迫害理由にない」として、難民認定を増やす方針は示さなかった。紛争から逃れたシリア難民が急増する欧州では、条約上の難民と認める例が増えている。

 日本政府は各地の難民向けに国連を通じた支援などを実施している。国連難民高等弁務官事務所UNHCR)のマイケル・リンデンバウアー駐日代表は朝日新聞の取材に「日本の財政支援はありがたい」としたうえで、難民受け入れについても「シリアの子どもに日本の病院で医療を提供したり、滞在ビザを出したりできる。大学生に奨学金を出し、日本の大学で学んでもらうこともできる」と語った。

 (鈴木暁子)
    −−「難民 世界と私たち:島国根性でやっていけるのか 緒方貞子・元国連難民高等弁務官」、『朝日新聞』2015年09月24日(木)付。

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http://www.asahi.com/articles/DA3S11979956.html





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