覚え書:「本音のコラム:価値観の共有=山口二郎」、『東京新聞』2015年10月04日(日)付。

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本音のコラム
価値観の共有 山口二郎

 このところ首相や官房長官の人間観が問われる発現が相次いでいる。
 安倍晋三首相は、国連での演説の後の記者会見で、シリア難民を日本に受け入れるかどうかを問われ、国内の人口減少対策が先だと述べた。首相は難民と移民の区別がついていない。これは一国の指導者としてはずかしい無知である。自由や人権という価値観を欧米と共有することを売り物にしているはずの首相である。窮鳥懐に入れば、漁師もこれを殺さずという日本のことわざを実践して、応分の難民を引き受けると言えば、世界のリーダーとして高い評価を得ていたであろうに。
 菅義偉官房長官は、人気俳優の結婚に関連して、女性が子どもを産んで国に貢献してほしいと述べた。この発言の根底には、すべての人間は国のために働く道具という発想がある。安倍首相が言い出した一億総活躍というスローガンも、人間を国力増進の道具としてしか見ない発想から出ている。
 西欧に起源を持つ自由や民主主義の原理の根底には、個人の尊厳があらゆる価値の源泉であり、個人が自分たちの利益のために国家を構成するという発想が存在する。その点をわきまえない政治家が自由や民主主義を口先で唱えても空虚である。原発事故対策も、労働法制も、個人の尊厳という価値から再考すべきである。(法政大教授)
    −−「本音のコラム:価値観の共有=山口二郎」、『東京新聞』2015年10月04日(日)付。

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