覚え書:「文化の扉:はじめてのスター・ウォーズ 熱狂40年 キャラや監督、新世代へ」、『朝日新聞』2015年10月04日(日)付。

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文化の扉:はじめてのスター・ウォーズ 熱狂40年 キャラや監督、新世代へ
2015年10月04日

 「スター・ウォーズ フォースの覚醒」が年末に公開される。10年ぶりの登場となる今作で、おなじみの登場人物たちは後景へと退き、銀河狭しと活躍するのは若く清新な世代だ。

 「スター・ウォーズ」の第1作が日本で封切られた1978年夏の熱狂を、当時を知らない世代に伝えるのは難しい。「タイタニック」や「千ログイン前の続きと千尋神隠し」にもあそこまでの熱狂はなかった。

 初日の朝には公開を待ちきれない観客が映画館に押し寄せた。映画の冒頭に現れた宇宙船のあまりの巨大さに、誰もが度肝を抜かれた。特撮も音楽も、これまで見たことのないスケールだった。

 映画興行サイト「ボックス・オフィス・モジョ」によると、シリーズ全6作の世界の興行成績は、今でこそ歴代20位に「エピソード1/ファントム・メナス」が顔を出すのみだ。しかし、80年代には「スター・ウォーズ」3作がランキング上位を占めていた。現代の物価に換算すれば、第1作は「風と共に去りぬ」に次いで2位だ。「スター・ウォーズ」シリーズは第1作が発した異様な熱量を推進力にして40年間突っ走ってきた。

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 先に公開されたエピソード4〜6では、主人公は若きルーク・スカイウォーカーに見える。だがエピソード1〜3を合わせたシリーズ全体を見ると、ダース・ベイダーの一代記であることが分かる。

 帝国軍最強の司令官ベイダーは元はアナキン・スカイウォーカーという前途有為の若者だった。特殊な力「フォース」を操るジェダイ騎士団の中でも、他を圧していた。しかし自信過剰になり、身勝手を許さない先輩騎士を皆殺しにして、悪の権化ベイダーとなる。

 彼の息子がルークだ。反乱軍に加わり帝国軍と戦っていたルークはベイダーに「私がお前の父だ」と告げられ、暗黒面へいざなわれる。エピソード4では真っ白だったルークの服の色が5では灰色、6では真っ黒になっている。

 暗黒面を拒否したルークは皇帝に殺されそうになる。それを救ったのが父親ベイダーだった……。彼は皇帝と差し違え、銀河に平和が訪れる。めでたしめでたし。

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 ダース・ベイダーという6作通しての人気キャラクターがいなくなり、最新シリーズは持つのだろうか。新プロデューサーのキャスリーン・ケネディさんは「大丈夫です」と自信を持つ。「新しい魅力的な物語で『スター・ウォーズ』を次の世代に継承していきたい」

 継承は「スター・ウォーズ」を貫くキーワード。父から子へ、師匠から弟子へ。フォースが世代を超えて継承される。最新シリーズでは、ルークが子供の世代にフォースを伝えるのだろうか。

 物語の中だけではない。監督も71歳のジョージ・ルーカスから49歳のJ・J・エイブラムスへとバトンタッチ。脚本のローレンス・カスダンら旧シリーズのベテランが新世代を支える。もう一つの継承が観客だ。第1作の時に熱狂したのは50代以上。あの熱狂を若い観客に継承していくことになる。(編集委員・石飛徳樹)

 

 <見る> 新シリーズ第1作「スター・ウォーズ フォースの覚醒」は12月18日公開。注目のキャラクターがカイロ・レンだ。エイブラムス監督によると「ベイダーに憧れているが、そこまでの存在ではない」。過去6作はウォルト・ディズニー・スタジオ・ジャパンからデジタル配信中。「スター・ウォーズ コンプリート・サーガ ブルーレイコレクション」が20世紀フォックスホームエンターテイメントジャパンから11月発売。

 <読む> イアン・ドースチャー著、河合祥一郎訳の「もし、シェイクスピアスター・ウォーズを書いたら」シリーズ(講談社)は第1巻「まこと新たなる希望なり」が発売された。第2巻「帝国、逆襲す」が12月、第3巻「ジェダイ、帰還せり」は来年4月に刊行される。以下続刊の予定。

 

 ■シェイクスピアと共通点 東京大教授・河合祥一郎さん

 いま「もし、シェイクスピアスター・ウォーズを書いたら」という本を翻訳しています。ルークやハン・ソロが時代がかった韻文で「哀れ、ストームトルーパーよ」などとしゃべるのは本当に笑えます。しかも、ただ面白いだけではない。ジョージ・ルーカス監督がいかにシェイクスピアを理解しているかが分かってきました。

 ジェダイ騎士のオビワンが霊体になってルークを見守る姿は「ハムレット」の父親そのもの。不安や疑念が募って暗黒面に落ちるダース・ベイダーも極めてシェイクスピア的な人物です。「スター・ウォーズ」の鍵概念となるフォース。これは「信じる力」のこと。強いビジョンを持てば思いが実現する。シェイクスピアも常に「信じる力」を描いています。

 帝国軍と戦うルークに霊体のオビワンが、機械に頼らず「フォースで感じよ」と命じます。ハムレットも「心の目」には亡父が見えると言っています。事実よりも真実を見よ、ということ。人生を豊かにするのは真実の方なのです。

 ビジュアルのすごさに目が行きがちな「スター・ウォーズ」ですが、シェイクスピアというフィルターを通してみると、非常に深みのある物語が見えてきます。

 ◇「文化の扉」は毎週日曜日に掲載します。次回は「松本隆」の予定です。ご意見、ご要望はbunka@asahi.comメールするへ。
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