覚え書:「今週の本棚・新刊:『B型肝炎 なぜここまで拡がったのか』=奥泉尚洋、久野華代・著」、『毎日新聞』2015年10月04日(日)付。

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今週の本棚・新刊:『B型肝炎 なぜここまで拡がったのか』=奥泉尚洋、久野華代・著
毎日新聞 2015年10月04日 東京朝刊

 (岩波ブックレット・562円)

 日本には、幼少期の予防接種時に注射器の使い回しが原因でB型肝炎に感染させられた人が40万人以上いる。この問題の責任を国が認め、被害者の全面救済につながった集団訴訟を、原告弁護団の事務局長と新聞記者が解説したブックレットだ。

 第1章を執筆した記者は、裁判を追う中で被害者への共感を深め、やがて原告を苦しめているのは健康被害や経済的な困窮だけでなく「謝罪して」という素朴な願いがかなわぬつらさだと気付く。和解協議が大詰めの段階で、東日本大震災が発生。ためらいつつも、死が迫る仲間を思って国との闘いを懸命に続けた原告たちの決意が、強く印象に残る。

 第2章では、戦後間もない1948年から40年間、国が危険を知りながら対策を放置していた実態を、弁護士が幅広い資料から解き明かす。被害は国民一人ひとりの生命や健康よりも、国家や社会の防衛を重視する考え方によって生まれた、との結論には、静かな怒りがにじむ。

 本書は行政の不作為が国民にもたらす不利益と、被害回復に果たす司法の役割を学ぶテキストにちょうどいい。社会問題に関心を持つ若い世代に読んでほしい。(清)
    −−「今週の本棚・新刊:『B型肝炎 なぜここまで拡がったのか』=奥泉尚洋、久野華代・著」、『毎日新聞』2015年2015年10月04日(日)付。

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http://mainichi.jp/shimen/news/20151004ddm015070018000c.html



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