覚え書:「今週の本棚・新刊:『戦争といのちと聖路加国際病院ものがたり』=日野原重明・著」、『毎日新聞』2015年10月25日(日)付。
-
-
-
- -
-
-
今週の本棚・新刊:『戦争といのちと聖路加国際病院ものがたり』=日野原重明・著
毎日新聞 2015年10月25日 東京朝刊
(小学館・1296円)
聖者ルカの名を冠する聖路加国際病院は戦時中、「大東亜中央病院」へと強制的に改称させられた。当時は敵性宗教に対する当局の弾圧は当然。著者自身もスパイ容疑をかけられ、特別高等警察(特高)に「天皇陛下とキリスト教の神とどっちがえらいんだ!」などと尋問されたという。この10月4日に104歳を迎えた名物医師による戦争体験記だ。
読者に若い世代を意識したために使われる文体は平易ではあるが、戦争を主題にしただけに語られる内容は深い。被災者救護に奔走した東京大空襲(1945年3月10日)でも、病院はついに直接被害を免れた。しかし、その理由を著者は戦後に知る。進駐してきた米軍が接収。人道主義とは関係なく、既に戦後を想定していた勝者のリアリズムだった。
「戦後70年」が過ぎていく。首相談話(8月14日閣議決定)は歴史解釈をめぐる曖昧さを指摘されもしたが、「過去を受け継ぎ、未来へと引き渡す責任」には言及した。既に戦後世代は全人口の8割超。戦中に目の前の命を救えなかったことを、著者は悔悟している。だからこそ、本著には未来の命のための「メッセージ」を込めたという。(昌)
−−「今週の本棚・新刊:『戦争といのちと聖路加国際病院ものがたり』=日野原重明・著」、『毎日新聞』2015年10月25日(日)付。
-
-
-
- -
-
-
http://mainichi.jp/shimen/news/20151025ddm015070011000c.html