覚え書:「今週の本棚・新刊:『天野さんの傘』=山田稔・著」、『毎日新聞』2015年11月01日(日)付。

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今週の本棚・新刊:『天野さんの傘』=山田稔・著
毎日新聞 2015年11月01日 東京朝刊

 (編集工房ノア・2160円)

 生島遼一、伊吹武彦、富士正晴など、著者が親しく交わった個性的な文学者らをめぐる回想的エッセー11編を集めた本。と書くと、初めから意図して編まれたように受け取られるだろうが、おそらくそうではない。5編は雑誌等に既発表の文章で、あとは、この3年ほどの間に書きためたもの。どれも思いつくままというふうに、自在につづられている。

 著者は長く京都大で教えたフランス文学者でもあるが、独特な作風の作家として知られる。それぞれ短編小説の味わいも持っている。

 表題作は京都に住んだ詩人、天野忠(1909−93年)についての文。「傘」は天野が亡くなった時、夫人からもらった「香典返しの品」だが、20年後、それは「私だけ」のことだったらしいという謎が浮かぶ。

 昨年没した歴史学者、松尾尊〓(たかよし)(1929生まれ)は著者とほぼ同年。京大人文研の助手時代、共に学び遊んだ仲である。追悼文に当たる「古稀(こき)の気分」、旧制中学で終戦を迎えた松尾が勤労動員中に付けていた日記(後に論文として発表)と、自分の日記を読み比べる「裸の少年」の2編は、淡々とした筆致から、かえって迫るものがある。(壱)
    −−「今週の本棚・新刊:『天野さんの傘』=山田稔・著」、『毎日新聞』2015年11月01日(日)付。

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