覚え書:「くらしの明日 私の社会保障論 子供の貧困 二つの提案=湯浅誠」、『毎日新聞』2015年12月09日(日)付。

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くらしの明日
私の社会保障論 子供の貧困 二つの提案=湯浅誠

毎日新聞2015年12月9日 東京朝刊

紙面掲載記事
評価法改善と資金多様化

 1億総活躍社会の実現に向けた緊急対策が発表された。「国内総生産(GDP)600兆円」「希望出生率1・8」「介護離職ゼロ」に向けた施策が列挙されている。

 冒頭には以下のような「基本的考え方」が示されている。

 −−若者も高齢者も、女性も男性も、障害や難病のある方々も、一度失敗を経験した人も、みんなが包摂され活躍できる社会、それが一億総活躍社会である。(中略)そのために、一人ひとりの希望を阻む、あらゆる制約を取り除き、活躍できる環境を整備する−−

 本コラムでもたびたび全員参加型の包摂度の高い社会の実現を提言してきた私としては、歓迎したい表現だ。

 私自身は、中でも子供の貧困対策に注目している。

 補正予算向けの緊急対策からは漏れたが、今回の文書には「『ひとり親家庭・多子世帯等自立応援プロジェクト』の内容を着実に推進する」とある。このプロジェクトでは子供の学習支援や親の就労・生活支援など、既存サービスを拡充する方向を打ち出している。子供の居場所づくりや安定雇用につながりやすい高等職業訓練促進給付金の機能充実、児童扶養手当の機能充実など、挙げられている施策の多くに違和感はない。

 ただ心配なことがある。財源だ。年度初めに策定する当初予算の審査が厳格なことは、霞が関では周知の事実だ。厳格な制約下でそれでも予算を増やそうとすれば、いきおい高い「業績」を求められることになり、それが現場の支援をゆがめるおそれがある。さまざまな困難を抱える子供たちと直接向き合う大人たちには、子供のさまざまな言動を広く深く受け止めるための精神的ゆとりが不可欠だ。だが高い重要業績評価指標(KPI)が、肝心の大人たちからそのゆとりを奪ってしまうというジレンマだ。

 もちろん貴重な税金を投入する以上、費用対効果の検証は不可欠だが、だからこそ知恵と工夫が必要になる。

 二つのことが考えられる。一つは、KPIそのものをより包摂的で多様な変化を評価できるように改善すること。子供の発達支援は「テストの点数が10点上がったから効果あり」というものではない。笑わない子に笑顔が戻るだけでも、将来的には大きな変化につながる可能性がある。

 もう一つは、税金とは異なる民間資金を開拓し、資金ルートを複数化することだ。日本は、国は借金まみれだが民間資金は潤沢だ。今回、官民共同で設立された「子供の未来応援基金」は、そこに道を開く。

 困難な時代だが、それでも私たちにはできることがある。知恵と工夫を積み重ねたい。(社会活動家)

 ■ことば

子供の貧困

 厚生労働省によると、2012年の17歳以下の子供の相対的貧困率は16・3%で過去最悪。6人に1人が貧困状況にあるとされ、昨年1月に子どもの貧困対策法が施行されたが、給付型奨学金やひとり親への児童扶養手当増額などの支援策は実現していない。
    −−「くらしの明日 私の社会保障論 子供の貧困 二つの提案=湯浅誠」、『毎日新聞』2015年12月09日(日)付。

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