覚え書:「今週の本棚・新刊 『タイ 混迷からの脱出』=高橋徹・著」、『毎日新聞』2015年11月22日(日)付。

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今週の本棚・新刊
『タイ 混迷からの脱出』=高橋徹・著

毎日新聞2015年11月22日 東京朝刊
 
 (日本経済新聞出版社・2808円)

 絶対王制が終幕した1932年の立憲革命以来、タイでは既遂・未遂も含め計19回のクーデターが起きている。憲法改正も度重なり、「政変」はこの国を象徴する言葉にすらなりつつある。なぜ「混迷」は終わらないのか、「転換期」はこの先も続くのか。2010−14年、バンコクに赴任した記者が濃密な取材成果を基にリポートしている。

 国王を元首とする「タイ式民主主義」。国王は仏教徒であり、過去の政変では対立勢力のトップを呼び、事態を収拾したことでも知られる。王室と仏教への帰依、さらに民主主義の標榜(ひょうぼう)。これらは大部分の国民の間でコンセンサスを持ち、だからこそ政治的対立はねじれて複雑化し、同時に国の大きな枠組みまでは壊れることがないのかもしれない。

 本書は混乱の背景にある経済情勢、経済政策についても、丁寧に分かりやすい分析を加えている。14年5月、プラユット現首相(当時陸軍総司令官)が当事者を集めた協議の席で、クーデターを決意、宣言するシーンの臨場感が生々しい。

 経済成長が鈍化傾向にある「中進国」の苦悩を、実に多角的に捉えている。(部)
    −−「今週の本棚・新刊 『タイ 混迷からの脱出』=高橋徹・著」、『毎日新聞』2015年11月22日(日)付。

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http://mainichi.jp/articles/20151122/ddm/015/070/030000c



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