吉野作造研究:国民参加と代議制とのバランスを説き、多数意見が少数派の『自由』を封殺することを警戒した吉野作造の議論を今、引照する意味

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「民主主義」が見つめ直された今年、「この時期に改めてデモクラシーについて考えてほしい」 「国民参加と代議制とのバランスを説き、多数意見が少数派の『自由』を封殺することを警戒した吉野の議論」を今こそ、という話ですが、ひとつだけ留意したいと思います。

すなわち、民衆の利益や幸福、意向を重視せねばならないとする吉野作造の「民本主義」は、絶大な天皇主権下における、それを利用して専制しようとの権力に対する柔軟なプロテストであったということ。

そして、その議論は、左右の同時代人からは、主権の所在を問わない姿勢が激しく批判されましたが、およそ100年後の今、同じ事を強いられるとは思いもよらなかったと思います。いち吉野作造研究者としてですが。

ゆく年くる年」では、ありませんが、振り返ってみますと、今年一年は、権力の横暴に制限をかける立憲主義が否定されたことをめぐり、プロテストした1年であったと思います。

うちにおいては、基本的人権の尊重が制限された帝国憲法の下で、柔軟な戦いを展開し、そとにおいては、植民地支配の完全な否定を展望した吉野作造のごとき、戦いをこれからしなければならないのかと考えると、がっくりとするよりも、今日より明日へ、という感慨ですね。




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吉野作造民本主義中央公論で論文復刻
2015年12月25日

中央公論』1916年1月号掲載で、復刻された吉野作造の「憲政の本義を説いて其有終の美を済すの途を論ず」
 「中央公論」2016年1月号の特別付録として、大正デモクラシーをリードした政治学者・吉野作造(1878〜1933)の論文が復刻された=写真。安全保障法制の議論で「民主主義」が見つめ直された今年。編集部は同誌掲載からもちょうど100年の復刻で、「この時期に改めてデモクラシーについて考えてほしい」という。

 論文は1916年1月号掲載の「憲政の本義を説いて其有終の美を済(な)すの途を論ず」。吉野は民衆の利益や幸福、意向を重視せねばならないとする「民本主義」を唱えた。苅部直・東京大教授(日本政治思想史)は「国民参加と代議制とのバランスを説き、多数意見が少数派の『自由』を封殺することを警戒した吉野の議論は、ポピュリズムの傾向や排外主義のデモが横行する現代にこそ重要な意味をもつ」と指摘する。

 同誌は1887年創刊。佐藤卓己・京都大教授(メディア史)は、論壇での役割を「左右の意見の『中央』に位置し『公論』を作り出すことにあった。吉野の時代であれば、社会主義国粋主義の中間点に立つこと」と説明する。左右二極化と言われる現在、「各誌がコアな読者の囲い込みに走る中、中間点に立つことは有利な戦略ではない」と見るが、「吉野論文復刻で今日なお、創造的な中間点に立つ意志を示そうとしたのだろう」という。(藤井裕介)
    −−「吉野作造民本主義中央公論で論文復刻」、『朝日新聞』2015年12月25日(金)付。

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http://www.asahi.com/articles/DA3S12132969.html


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