覚え書:「今週の本棚・本と人 『現代の現代性 何が終わり、何が始まったか』 著者・大澤真幸さん」、『毎日新聞』2015年11月29日(日)付。

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今週の本棚・本と人
『現代の現代性 何が終わり、何が始まったか』 著者・大澤真幸さん

毎日新聞2015年11月29日

 (岩波書店・3456円)

方向性見いだす道標、目指し 大澤真幸(おおさわ・まさち)さん

 誰もが方向性を見失っている時代に羅針盤にならんと岩波書店が挑むシリーズ「岩波講座 現代」の第1巻『現代の現代性』が刊行された。編集委員代表として、巻頭の「刊行にあたって」と論文「<民主主義を超える民主主義>に向けて」を寄稿した。「将来の人々にもつながる普遍的な真理を見いだしたい」とシリーズの意義を語る。

 編集委員はほかに、佐藤卓己・京都大教授(メディア史)や杉田敦・法政大教授(政治学)ら手厚い陣形。全9巻で、今月刊行された『歴史のゆらぎと再編』(第5巻)や『資本主義経済システムの展望』(第3巻)など巻別にテーマを掲げ、各分野の論客が論陣を張る。「金融政策や中国事情、日米関係など専門は細分化され、グローバル社会で何が起きているのか分かりにくくなっている。さまざまな要素を複合的に絡めて見ていきたい」と狙いを語る。

 岩波書店は1963−64年にも同名のシリーズを刊行している。当時は、60年安保の余韻を残しつつ、東京五輪開催に向かうなど、現在の日本と重なる部分がある。一方、外交は冷戦構造、経済は高度成長と迷いがなかった当時に比べ、現代は混迷の最中(さなか)。「前回は冷戦時代で、世界の枠組みがはっきりしていたが、今、我々は世界を見る目の空白に苦しんでいる。9・11があり、リーマン・ショックがあって、3・11が起きた。包括的にものを見ていかないと世界を理解することはできない」と強調する。

 寄稿した論文では、ヴァルター・ベンヤミンの『歴史哲学テーゼ』を引用し、「いかにして、現在のわれわれが未来の他者と連帯することができるのか」と問いを投げかける。「原発事故が起きた時、原発をつくった人たちは半世紀後の僕らのことを考えなかったな、と思った。僕らも今、何かを考える時、100年後を考えた上でのことかどうかが先々効いてくる」と指摘。集団的自衛権も、「21世紀前半のどこかで、我々がやったことの反省を求められる時がやってくる」と鋭く予言した。

 日本人が方向性を見いだす道標(みちしるべ)のようなシリーズを目指す。「日本は現在、真空状態。これから我々は何をするべきか、自分たちで考える助けになれば」<文と写真・木村光則>
    −−「今週の本棚・本と人 『現代の現代性 何が終わり、何が始まったか』 著者・大澤真幸さん」、『毎日新聞』2015年11月29日(日)付。

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http://mainichi.jp/articles/20151129/ddm/015/070/014000c








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