覚え書:「フロントランナー:SEALDsメンバー・明治学院大学4年、奥田愛基さん デモを変え、社会を変える」、『朝日新聞』2015年12月19日(土)付土曜版。

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フロントランナー:
SEALDsメンバー・明治学院大学4年、奥田愛基さん デモを変え、社会を変える
2015年12月19日

 取材当日の11月、日曜日。待ち合わせ時刻を40分以上過ぎて、東京・代々木上原駅前に現れた。パーカーのポケットに両手を突っ込み、背中を丸めて走ってくると、小声で「すみません……」。低血圧で早起きは大の苦手なのだ。

(フロントランナー)奥田愛基さん 「絶望を抱えながらも、希望を語る」
 この青年こそ、今年、おそらく最も世間の注目を集めた大学生。安保法制に抗議し、国会正門ログイン前の続き前などで大規模デモを率いた学生団体「SEALDs(シールズ)」の中心メンバーだ。

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 6月から、法案成立の9月19日の明け方まで、毎週金曜日の同じ時間、同じ路上で、仲間と声を上げた。激しい雨の中も、うだる暑さでも。若者の輪は回を重ねるごとに膨らんだ。知識人を引き寄せ、高校生が繁華街を練り歩き、地方都市に波及した。「政権へ異を唱えたいと思う人が増えてきた時、彼らが“着火剤”の役目を担った」と作家で明治学院大教授の高橋源一郎さんはいう。

 北九州市生まれ。ホームレスの自立を支える活動で知られる牧師の父と、その人たちを家族のように受け入れる母。幼い頃から、炊き出しの手伝いなどをして育った。だが、地元の中学でいじめに遭って不登校になる。「自分が自分になるとは?」と独り悩んだ。世間の価値観とかけ離れた家庭にも、地元にも居場所がなかった。自分でネットで調べて、沖縄の離島へ転校した。高校は島根の小さな全寮制へ。テレビも携帯もネットも漫画も禁止という3年間が終わる前日、東日本大震災が起きた。

 被災地支援を始めた父のつてで現地に入り、大学入学後もボランティアに通った。だが当事者ではない自分の立ち位置に悩み、2年の秋、休学。カナダやアイルランドなどをバックパッカーのように旅した。同世代と酒を飲みながら政治や平和を語り、若者が大学の学費値上げや都市開発に反対するデモを目の当たりにした。

 そして帰国。2013年12月、特定秘密保護法に反対する学生有志の会「SASPL(サスプル)」を約10人で結成。これが後にSEALDsとなる。

 ヒップホップ音楽が流れる車の荷台に立ち、ラップ調に韻を踏むコールや、スマートフォンの画面を読み上げながらの演説など、従来にないスタイリッシュなデモを作り上げ、動画を交えてSNSで拡散、共感を広めた。保守の若手評論家古谷経衡(つねひら)さん(33)は「良く言えば、特別な才能の持ち主。悪く言えば、幼少から自由と民主主義に触れて育った“変人”」とみる。

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 法案成立目前の9月15日、参院特別委員会の中央公聴会。公述人席の一番端に、金髪を黒く染め直し、借り物のスーツを着て座った。「寝ている人がたくさんおられるが、よろしければ話を聞いていただきたい」。約15分間に及ぶ演説の冒頭、そう釘を刺すと、何人かの政治家たちは苦笑いして姿勢を正した。「何もない、誰も知らないところから、ひとりで考え、やってきた。だからあなたたちも個人として決断を」と思いをぶつけた。覚悟の上で動く一人ひとりの個人が、社会を変えると信じている。

 (文・高橋美佐子 写真・関田航)

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 おくだあき(23歳)

 ※26日と1月2日はbeを休みます。次回は1月9日です。ご意見・ご感想はbe@asahi.comメールするまで。

 (b3面に続く)
    −−「フロントランナー:SEALDsメンバー・明治学院大学4年、奥田愛基さん デモを変え、社会を変える」、『朝日新聞』2015年12月19日(土)付土曜版。

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http://www.asahi.com/articles/DA3S12121076.html


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フロントランナー:奥田愛基さん 「絶望を抱えながらも、希望を語る」
2015年12月19日

 (b1面から続く)

 ――学生たちで抗議活動を始めたきっかけは?

 震災支援活動中、「自分たちはいつまで被災者と言われ続けるの?」と問われ、言葉を失いました。僕は一体どこにいるのだろうか、と。その後に原発再稼働反対のデモに行って、そんな簡単に反対と言えるのかと悩んだり、違和感にかられたり。考え続ログイン前の続きけて眠れなくなり、大学を休学して日本を脱出しました。

 帰国すると、同居の友人が「特定秘密保護法、ヤバくね?」と話しかけてきました。普通に考えておかしいことはおかしいと、学者や政治家じゃなくても言っていいんだと。それで、所属やアイデンティティーを超え、ダメな自分の現状もひっくるめて、一学生として、自分の言葉で、やれる範囲でやってみようと決意したんです。

 ――まったく新しい手法でデモを率いました。

 だれもやったことなくて、ネットで調べました。スタイルもすべて自分たちで考えた。シュプレヒコールではなく、ライブみたいな掛け合いで、「民主主義ってなんだ?」「これだ!」って自分たちに問いかけようと。告知はフライヤーや動画を作り、ツイッターフェイスブックなどで拡散させる。スピーチは事前に原稿を準備し、みんなで読み合わせもしました。

 ■生と死考える

 ――今の活動の原点は高校時代にあるそうですね。

 平和教育に熱心なキリスト教系の全寮制で、僕が2年生の冬、授業で元BC級戦犯の飯田進さんの講演を聴きました。飯田さんは「人を殺した」と震える声で罪を告白し、明日世界が滅びてもリンゴの木を植え続けるという話を紹介しました。その後、ものすごく長い手紙が学校に届いた。僕らの感想文に対する返信で、とってもうれしかった。この人は絶対伝わらない戦争体験を、あきらめずに伝えようとしていると。

 高校の教育理念は「人は何のために生きるのか」。それは“生きるしんどさ”を抱え、いつも死にたい感じがしていた僕自身の問いでもありました。飯田さんの手紙を読み、絶望を抱えながらも希望を語る人がいる、僕は一人じゃないと思えました。

 昨年、80歳を過ぎた祖母が戦時中暮らしたフィリピン・ダバオへ、祖父母や祖母の妹、僕の妹弟ら総勢10人で行きました。無口な祖母は幼い日を過ごした土地に立った時、弟たちを亡くした苦しみと一緒に、花の美しさや楽しかった思い出も語り始めた。

 戦争は体験しないと、そのリアリティーはわからないという。でも不謹慎と口を閉ざしたり端折られたりしてきた体験者の言葉の中に、二度と繰り返してはいけないとのメッセージが感じ取れると思う。

 ――この1年は各メディアに引っ張りだこでした。

 国会前での抗議を始めた6月以降、取材は積極的に受けようと決めた。特定秘密保護法の時のように、安保法案も可決の際にちょっと報道されて終わりかねないという危機感からです。

 ただ9月に僕が通う大学へ、家族も対象とする殺害予告が届いた時、記者にたびたび「どんな気持ちか?」と聞かれ、うんざりしました。僕がどう思っているかは、そんなに重要ですか? それよりも、社会としてどう受け止めるのかをマスコミは語ってほしかった。SEALDsには批判も多くありますが、僕はしっかり耳を傾け、誠実に自分の言葉で説明することを心がけてきました。

 ――安保法案が通ったとき、取材に対し「悲壮感はない」と答えました。

 むしろすごくポジティブだった。政治の主権者は僕たちで、やることは変わらない。この大きな流れは今後も続いていくと思う。

 ■新たな活動へ

 ――卒業間近ですね。

 今、政党政治をテーマに卒論を書きつつ、大学院に進むために勉強中です。

 SEALDsは来年の参院選で解散予定で、14日に政策を提言するためのシンクタンク「ReDEMOS(リデモス)」を弁護士や学者と設立しました。市民が参加し、安保法や特定秘密保護法の改正を求め、本当の立憲民主主義を実現する法の整備を与野党に働きかけます。

 人間は皆ひとりで生きるしかなくて孤独だけど、ひとりじゃ生きられない。そんな自分やあなたが個人として認められ、一緒に生きることを支える仕組みが、民主主義じゃないですか。

 最近、母方の祖父が「やっと奥田愛基になったな」と言ったんです。悩んでいた中学生の僕に「奥田愛基になれ!」と繰り返したじいちゃんです。やっと認めてもらえたのかな。

 ■プロフィル

 ★1992年、北九州市で生まれる(写真は6歳ごろ)。中学で不登校になり、2年生の冬から、都会の子どもらを受け入れる沖縄・鳩間島へ転校。

 ★2008年、島根県江津市キリスト教愛真高校に入学。自然に囲まれた寮生活を送る。

 ★11年、明治学院大国際学部に入学。高橋源一郎さんの講義を受講。

 ★12年秋に休学。カナダなどへ留学。留学前に被災地の人らを撮影した5分間の短編映画「生きる312」が、13年、国際平和映像祭グランプリを受賞。

 ★同年12月、特定秘密保護法に反対する学生有志で「SASPL」を結成。14年2月、新宿で初の抗議デモ。費用は自分のバイト代でまかなった。7月、集団的自衛権の行使容認の閣議決定を受けて活動本格化。12月、解散。

 ★15年5月3日、「SEALDs」(自由と民主主義のための学生緊急行動)創設。

 ★12月、市民のための政策提言シンクタンク「ReDEMOS」を設立。

 ★好きな音楽はラップ。ラッパーが好むセレクトショップ「12XU」(東京・代々木上原)がお気に入り。店長は活動の支援者でもある。


    −−「フロントランナー:奥田愛基さん 「絶望を抱えながらも、希望を語る」」、『朝日新聞』2015年12月19日(土)付土曜版。

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http://www.asahi.com/articles/DA3S12121024.html



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