覚え書:「今週の本棚・この3冊 落語論 サンキュータツオ・選」、『毎日新聞』2015年12月20日(日)付。
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今週の本棚・この3冊
落語論 サンキュータツオ・選
毎日新聞2015年12月20日 東京朝刊
<1>まくらは落語をすくえるか(澤田一矢著/筑摩書房/品切れ)
<2>落語評論はなぜ役に立たないのか(広瀬和生著/光文社新書/品切れ)
<3>現在落語論(立川吉笑著/毎日新聞出版/1512円)
立川談春師匠の『赤めだか』がドラマ化されたり、来年からは雲田はるこ原作の漫画『昭和元禄落語心中』がアニメ化される。私もささやかながら毎月5日間の初心者向け落語会を開催したりしていて、肌で感じる「落語、キテるぞ!」という空気。このままでは滅びるといわれていた90年代から思うと、落語はずいぶん活性化している。
いくつかの人気ドラマがあって、落語を聴く分母も徐々に増えているが、いまだに「落語を聴くには、なにか勉強してからでないといけない」と思っている人も多い。実際には映画を観(み)に行くように気軽に行ってなんの問題もなく楽しめるのだが、そこまでの一歩が踏み出せないようだ。難しそうなイメージだけが先行している。どうしたらこの時代に落語を最先端のエンターテインメントとして提案できるのか。そこで大事になってくるポイントは、その落語家さんが「現代人としておなじ時代の人に語りかける力があるか」ということだ。
<1>は、80年代の書籍だが、当時の落語家の「まくら」だけを文字化して、古典落語をどう現代に接続するか、という観点で、そこにさまざまなアプローチが存在することをまとめた名著だ。技術論として「まくらと古典をリンクさせる」という考えが存在していても、このように例示してくれる本は非常に少ない。現在に置き換えても充分に読み応えのある一冊だ。
<2>は、2000年代に入っていよいよ活況を呈してきた落語界に、昭和の落語と決別するときだと告げた本だと思う。「落語とはなにか」と考える必要はない、落語は文学ではない、演目は「素材」にすぎない、などなど、目次も刺激的。完成形など存在せず、気軽に楽しめる落語という芸能の魅力を叫び続けてくれている。この著者の書く落語論はどれもおもしろい。
<3>は、立川談志以降にアップデートされた落語の魅力を、おなじ現代人として語った、出版されたばかりの一冊。演劇、映画、読書にスポーツ、多様化する趣味のなかで、落語を並列化し、その素晴らしさを見事に語っている。落語は省略されているからこそ「なんでもある」し、伝統性と大衆性の両方の顔があるからこそ生き残ってきているが、誤解も生まれている。談志の『現代落語論』からちょうど半世紀、若干30歳の気鋭の二つ目が出版した歴史的一冊となるだろう。
−−「今週の本棚・この3冊 落語論 サンキュータツオ・選」、『毎日新聞』2015年12月20日(日)付。
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今週の本棚・この3冊:落語論 サンキュータツオ・選 - 毎日新聞
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