覚え書:「証言で綴る日本のジャズ [著]小川隆夫 [評者]宮沢章夫(劇作家・演出家)」、『朝日新聞』2015年12月20日(金)付。

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証言で綴る日本のジャズ [著]小川隆夫
[評者]宮沢章夫(劇作家・演出家)  [掲載]2015年12月20日   [ジャンル]歴史 アート・ファッション・芸能 
 
■質問が引き出す「時代の空気」

 ジャズについてそれほど詳しくなくても、ミュージシャンや評論家らの証言を読むことで、浮き彫りになる時代の空気を感じる。ジャズだけではない。この国のポピュラーミュージックの歴史を理解するためにも興味深い好著だ。
 もちろん、「証言」から多くを知るが、同時に、著者がミュージシャンらに投げかける質問にも意味がある。以前から、インタビューはそれを受ける人を描くだけではなく質問者の姿が出現すると感じていた。本書で著者は、日本のジャズに関わった様々な人から話を聞く。的確な質問によって語り手はジャズと時代を物語るが、著者の質問がそれを見事に引き出す。
 つまりこれは、インタビュアー小川隆夫が表現された本だ。
 もちろん、書名にあるように「証言で綴(つづ)る日本のジャズ」だが、それを引き出したのは著者の該博なジャズへの知識と、強い熱意だろう。それが本書を豊かにする。なかでも興味深いのは、著者はしばしば、「幻のピアニスト」と呼ばれ一九五五年に自ら死を選んだ不遇の「守安祥太郎」について質問し、謎に包まれた姿を証言によって理解しようとする。たとえば、録音エンジニアとしてジャズに深く関わった岩味潔は、「当時の秋吉さんは守安さんに教えてもらっていました。だから秋吉さんは守安さんを『お兄ちゃん、お兄ちゃん』と慕っていたんです」と著者の質問に応じる。秋吉さんとは、もちろん「秋吉敏子」だ。同様に多くの証言者が守安について語る。だが不思議なのは、著者の小川が、秋吉に対してはその質問を一切しないことだ。もちろんインタビューは編集をされているだろうが、それは奇妙だ。質問することだけではなく、質問しないことによってなにかが出現する。
 これはあきらかに、インタビュアーである著者、小川隆夫が描かれた本だ。
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 駒草出版・5616円/おがわ・たかお 50年生まれ。整形外科医。ジャズジャーナリスト。『ブルーノートの真実』ほか。
    −−「証言で綴る日本のジャズ [著]小川隆夫 [評者]宮沢章夫(劇作家・演出家)」、『朝日新聞』2015年12月20日(金)付。

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