覚え書:「18 私たちも投票します:認められぬ同性婚、なぜ切ない? AKBと学ぶ」、『朝日新聞』2016年1月18日(月)付。

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18 私たちも投票します:認められぬ同性婚、なぜ切ない? AKBと学ぶ
2016年1月18日
 ■第2回 立法の仕組み 同性婚問題から考える

 6月から新たに選挙権を得るAKB48の3人が、憲法学者の木村草太(そうた)さんと政治の仕組みを学ぶシリーズ「私たちも投票します」(第1部)は今回、法律をつくる立法について話し合います。先月22日付紙面で掲載した初回は、国の仕組みや多数決について学びました。第2回はまず、AKB48の曲から法律とは何かを考えていきます。

法律と同性愛って関係ある? AKB、憲法学者と考える
 ■認められぬ同性婚、なぜ切ない? 法律上、家族になれないから

 木村草太 今回はみなさんが選挙で投票することで、どう政治に参加していくかを具体的に考えてみましょう。AKB48の歌に「禁じられた2人」というのがありますね。これは同性愛の歌ですか?

 3人 そうですね。おそらく……。

 木村 今、日本で同性愛のカップルが結婚したいと思った時、どんな障害があるでしょう。お互い女性だから、結ばれることはない。その切なさがこの歌のテーマですよね。なぜ切ないんでしょう。

 茂木忍(もぎしのぶ) 世間的にまだ同性愛が一般的ではない、「切ないポイント」だと思われているからじゃないでしょうか。

 向井地美音(むかいちみおん) 日本ではまだ同性同士の結婚を認める雰囲気があまりないと思う。東京の渋谷区で関係を認める条例ができたってニュースは見たんですが。

 木村 結婚を認められないとなぜ困るのか。ここから考えていきましょう。

 加藤玲奈(れな) 結局、2人がどれだけ好き合っていても、結婚できなかったら独り身同士なんですよね。

 茂木 遺産の相続で困ると聞きました。相手に何か問題が起きても、家族じゃないから協力できないこともあると思います。

 向井地 確かに家族という関係になれない感じはありますね。結婚しないと戸籍も変わらないし。

 木村 法律的にみると、婚姻は契約の一種です。遺産相続の権利や同居する義務、他の人と付き合わない義務など、いろいろな権利や義務が発生することを2人で約束する。それに違反すると、国は約束を守るよう法律で強制してくれる。

 茂木 知らなかった。気持ちの問題だと思ってました。結婚したからほかの子とは付き合わないでね、みたいな。法律や契約として決まってるものとは思っていなかったです。

 木村 同性愛カップルも、一緒に住むとかの個別の契約は結べます。でも、法律上のフルスペックの契約はできない。そこに「切ないポイント」があるんですね。驚くかもしれませんが、欧米では宗教の影響もあって、20世紀前半ごろまでは、同性同士が付き合うと刑罰を科すという国がむしろ一般的だったんです。

 3人 へえー。

 木村 米国では同性愛の行為に罰金や懲役を科す州の法律が根強く残っていた。最高裁判所が、それは憲法違反だから無効という判決を出した。何年ぐらいのことだと思いますか?

 加藤 結構前ですか。何十年前とかかな?

 木村 実は、2003年です。そこから急激に同性愛差別をなくそうという動きが活発になり、昨年には同性の結婚を認めないのは人権侵害であり憲法違反だとの判決が出た。今は米国全土で同性婚ができるように変わりました。

 ■立法の前段階、法案はどこが作る? 主に内閣。国会が審議し議決

 木村 日本ではまだ、同性婚は認められていない。では、その「切ないポイント」を変えるためにはどうすればいいか。立法・行政・司法のうち、何から手をつければいいでしょう。

 向井地 立法ですか?

 茂木 同性でも結婚できる法律をつくる。

 木村 そうです。立法府同性婚を認める法律をつくれば、行政の窓口も婚姻届を受理するようになる。結婚した同性愛者が相続でもめても、司法府が裁判をしてくれる。フルスペックの契約ができるようになれば、問題は一つ解決しますね。でも「世間体」の問題はどうでしょう。法律だけで、解決しますか。

 加藤 しないですね。結婚したからといって、世間体とは別問題だから。

 木村 では、世間体の問題を解消していくためには、どんな仕組みを使えばいいと思いますか。

 向井地 同性愛に対して国民の理解を広める。こういう人たちもいるんだよ、と伝えることから始める。

 木村 PRも必要ということですね。さて、次に立法の前の段階について考えてみましょう。法律をつくるには、いきなり条文を書くことはできません。まず実現したい制度を、細かいところまで具体的に思い描く。それから、法案として文章にまとめます。では、だれが法案をつくっているのでしょう。

 加藤 立法は国会議員の仕事だと教わりました。だから、議員がみんなでつくる?

 木村 法案を提出する権限は国会議員にもあります。ただ、法案の作成には他の法律との整合性を考えるといった細かい技術が必要なので、あまり国会議員向きの仕事ではありません。実際にできる法律の8割近くは、ほかのところが取りまとめた法案です。どこだと思いますか。

 向井地 政党かな?

 木村 実は、内閣なんです。つまり内閣は、できた法律を執行するだけではなく、立法の前段階で法案をつくるという仕事も担っている。国会議員の主な仕事は、その法案を審議し議決することです。

 例えば、同性婚を認める法律の成立を望む人がいたとしても、内閣が問題意識を持ってくれなければ、なかなか国会に法案が提出されてこない。法案として提出されなかったら、どうなるでしょう。

 3人 同性婚を認める法律はできない。

 木村 そうなりますね。内閣の仕事ぶり次第で、実は国会の前段階の作業がコントロールされてしまう。ですから、内閣は非常に大事な仕事をしているわけです。=敬称略(構成・貞国聖子)

 ◆キーワード

 <同性婚のいま> 日本では同性婚が法的に認められていないため、配偶者控除のような税優遇や相続権を得ることができない。憲法24条は「婚姻は両性の合意のみに基づいて成立」と定めているが、同性婚を禁止する趣旨ではないとの解釈が一般的だ。ただ、同性婚の法制化には慎重論も根強い。

 東京都渋谷区では昨年3月、全国初の同性パートナーシップ条例が成立。区が発行した証明書をもつ同性カップルは家族用の区営住宅に入居できたり、不動産会社で家族として住居を借りたりできる。世田谷区も昨年11月に同性カップルを認める制度を始めた。

 海外ではイギリスやフランス、スペインなど同性婚を法律で認める国が増えている。
    −−「18 私たちも投票します:認められぬ同性婚、なぜ切ない? AKBと学ぶ」、『朝日新聞』2016年1月18日(月)付。

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http://www.asahi.com/articles/DA3S12164502.html





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