覚え書:「書評:戦国大名の正体 鍛代 敏雄著」、『東京新聞』2016年01月17日(日)付。

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戦国大名の正体 鍛代 敏雄著

2016年1月17日
 
◆粛清を支配の手段に
[評者]渡邊大門=歴史学者
 日本史の中でも戦国時代は人気が高い。本書は戦国大名(あるいは戦国時代)を多角的な視点から分析し、その正体を明らかにしようと試みている。
 本書は六章から成っており、第一章が注目される。著者がもっとも重視するのは、戦国大名による粛清(父子、兄弟、家臣)である。著者は粛清の豊富な事例を挙げ、粛清が戦国大名の権力および権威の源泉となり、その正当性と正統性が家中や分国内で認知されることにより、支配が安定すると指摘する。
 つまり、粛清とは単なるスキャンダルではなく、体制強化を目的とした一つの手段であり、戦国大名が軍事優先の主権国家を築くために必要だったのだ。
 第二章以下では、戦国大名の謎を解くキーワードを数多く挙げながら、史料に即して解説を行っている。たとえば、今や織田信長の時代の「天下」は「日本全国」ではなく、「京都を中心とした畿内」を指すことが常識である。こうした事実も丁寧に史料を紐解(ひもと)き説明している。
 終章では十六世紀を地域主権国家を確立した戦国大名の成立から終焉(しゅうえん)の時期ととらえ、同時に中世が終わり近世が始まるとする。戦国時代は資本主義の萌芽(ほうが)、近代国民国家の道標と結論付け、その遺産が江戸時代にも引き継がれたと指摘する。戦国大名や戦国時代をより具体的に知りたい人に一読をお薦めしたい。
 (中公新書・886円)
<きたい・としお> 1959年生まれ。東北福祉大教授。著書『神国論の系譜』など。
◆もう1冊 
 久保健一郎著『戦国大名の兵粮(ひょうろう)事情』(吉川弘文館)。調達法や備蓄など兵粮を通じて戦国大名とその時代を考察。
    −−「書評:戦国大名の正体 鍛代 敏雄著」、『東京新聞』2016年01月17日(日)付。

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