覚え書:「書評:ジープと砂塵 米軍占領下沖縄の政治社会と東アジア冷戦 1945−1950 若林千代 著」、『東京新聞』2016年01月17日(日)付。
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ジープと砂塵 米軍占領下沖縄の政治社会と東アジア冷戦 1945−1950 若林千代 著
2016年1月17日
◆粘り強い「運動」の礎
[評者]丸川哲史=明治大教授
横書きで印刷された本書は形としてよくある学術書にも見えつつ、実は並々ならぬアクチュアリティを持っている。アクチュアリティとは無理に訳せば「現在性」となろうか。現在まで打ち続く沖縄の反基地運動の根にあるものが本書から明らかとなるだろう。もちろん、圧倒的な基地の存在が「運動」が起こる前提ではある。だが、もっとも重要なことは、なぜかくも粘り強い「運動」が日本本土とは別社会であるかのように沖縄で展開しているのか、ということである。
本書はまさに、その意味をアクチュアルに開示する。占領から琉球列島米国民政府の設立までの五年間が描かれるが、この時期は政治的に無風であるとされてきた。本書は、まさにその臆見を覆したのだ。ここでの「政治」とは、米国による冷戦「政治」と沖縄人の側の潜在的「政治」との相互作用のことである。
さらに本書が卓越している第一の点とは、まず丹念に米国の資料を駆使し、東アジア全体の「冷戦状況」を有機的に描き出したこと。第二の点として、占領政策に抵抗した沖縄内部の「運動」を欧米式の「市民社会」論では説明せず、民衆自身による様々な抵抗、交渉、妥協を含んだ豊かな「政治社会」の動態として描き出したことだ。本書は戦後沖縄を理解しようとする読者や研究者にとって、もっとも参照されるべき礎である。
(有志舎・5184円)
<わかばやし・ちよ> 1966年生まれ。沖縄大教授、国際関係学。
−−「書評:ジープと砂塵 米軍占領下沖縄の政治社会と東アジア冷戦 1945−1950 若林千代 著」、『東京新聞』2016年01月17日(日)付。
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http://www.tokyo-np.co.jp/article/book/shohyo/list/CK2016011702000178.html
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