覚え書:「くらしの明日:私の社会保障論 1億総活躍社会に水=山田昌弘」、『毎日新聞』2016年1月27日(水)付。

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くらしの明日
私の社会保障論 1億総活躍社会に水=山田昌弘

毎日新聞2016年1月27日
夫婦別姓認めぬ規定「合憲」 中央大教授・山田昌弘

 昨年末、夫婦別姓を認めないという現行民法の規定が、「合憲」であるとの最高裁判決が出た。

 多くの人にとっては、自分には何の関係もないと思ったかもしれない。夫婦で別姓にしたいという人は少数派だし、女子学生に聞いても、結婚したら夫の姓にしたいというのが多い。男子学生は、自分の姓が変わることに現実感がないので、無関心であった。

 そういう意味では、判決が言うように、明治半ばまでは夫婦別姓が伝統だった日本社会にも夫婦同姓の慣習が定着したというのは、事実だろう。

 しかし、夫婦同姓が定着しており、大した不利益ではないのだから、他の選択肢を認めないというのは、いかがなものだろうか。逆に言えば、この判決は、多数派のやり方に従わないものは、不利益を伴って当然という考え方につながっていないだろうか。

 私は、多数派に従わなければ損、という意識が現在の日本社会の停滞を招いているのではないかと思っている。

 みんなが遅くまで働いている中で、自分だけ早く帰るのは忍びないという意識が相互に働いて、結果的に必要がなくても長時間労働をせざるを得ないということはないだろうか。育児休業を取った男性は、変な目で見られるという意識が、取得をためらわせているのではないだろうか。

 会社一丸となって、一つの製品を力任せに大量に作って売る、というビジネスモデルが高度成長期の経済発展の原動力になったのかもしれない。しかし、今は、グローバル化の時代である。商品も多様化し、新しいアイデアがもの作りの現場でも必要になっている。

 イノベーションを起こして、経済をリードするためには、外国人や女性をはじめとして多様な人材の能力を最大限に引き出すこと、つまりダイバーシティーが必要になっている。そんな中、多数派に合わせることにエネルギーを注いでいて、経済が活性化するのだろうか。

 世界の中で、夫婦同姓か別姓かの選択を認めていないのは、日本くらいになってしまった。夫婦同姓が原則の欧米キリスト教諸国でも、別姓を選ぶ夫婦が少数いる。夫婦別姓が原則の中国や韓国でも、同姓を選ぶ夫婦が少数いる。日本以外の国では、「夫婦同姓」夫婦と「夫婦別姓」夫婦が混在しているが、それで何か問題が起こったとは聞いたことがない。

 今回の最高裁判決は、安倍政権が進める、1億総活躍社会に水を差したものだと思えてくるのである。

 ■ことば

夫婦同姓に合憲判断

 民法750条は「夫婦は婚姻の際に定めるところに従い、夫または妻の姓を称する」と夫婦同姓を義務づけている。昨年12月16日、最高裁大法廷は、家族の呼称を一つに定めるのは合理的として、合憲とする判断を初めて示した。夫婦同姓で女性が受ける不利益は通称使用の広がりで、一定程度緩和されていると指摘している。裁判官15人のうち、夫婦同姓を10人が合憲とし、女性3人全員を含む5人が違憲とした。
    −−「くらしの明日:私の社会保障論 1億総活躍社会に水=山田昌弘」、『毎日新聞』2016年1月27日(水)付。

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