覚え書:「【書く人】感動を共有するために『数学する身体』 独立研究者・森田真生さん(30)」、『東京新聞』2016年02月07日(日)付。

Resize0699

        • -

【書く人】

感動を共有するために『数学する身体』 独立研究者・森田真生さん(30)

2016年2月7日


 「数学」と聞いただけで、恐怖感にとらわれる人は少なくないだろう。しかし、そうした意識がちょっと変わるかもしれない。帯に書かれた「音楽や美術のように、数学も表現の行為」という文言からして刺激的だ。
 東京大理学部数学科を卒業。現在は「独立研究者」を名乗り、特定の組織に属することなく数学の研究に没頭している。「数学が苦手な人にこそ届けたいという気持ちで書きました」。東大にはもともと、文系で入学した。自身も「数学者というと、パズルをするように、ひたすら問題を解いている特殊な人たちと思っていた」という。
 数えるという行為から始まった数学の歴史をたどりながら、二十世紀前半の同時代を生きた世界的な数学者、岡潔(きよし)(一九〇一〜七八年)とアラン・チューリング(一九一二〜五四年)の二人に多くのページを割く。性格も研究も思想も大きく異なる彼らだが、数学を通して「心」を解明しようと試みた点は共通していた。
 「数学は情緒だ」と繰り返した岡。彼の著書『日本のこころ』に出合ったことが、数学の道へ転じるきっかけになった。「数学者の基底にあるのは『何となく分かる』という実感、心の働き」だと岡の意を説明する。例えば、三百五十年間も難問であり続けた「フェルマーの最終定理」も「ほとんどの人は、何となく正しいと分かっていた」。
 しかし、そうした実感だけでは数学にならない。「分かったことを知的に表現するのに必要なのが、数式」。数学嫌いからすれば、記号と数字の羅列にしか見えない数式だが「数学者は、それを糸口にして広大な世界を見ている」とも。短い言葉を端緒に果てなく想像が広がる俳句のように。
 「美しい風景を見たとき、自分以外の誰かと分かち合いたいと人間は思う。感動を共有するために、美術家は美術を、音楽家は音楽を、そして数学者は数学を用いるんです」。そう聞けば、これまで宇宙人ほど遠い存在だった数学者が、少し身近になる。言語や習慣が違う異民族ぐらいか。
 月に四〜八回、「数学の演奏会」などと銘打ったライブ活動を全国各地で行う。十三日には、名古屋市千種区の小劇場で開催予定だ。「『私の知らない何かが、数学にはある』と思ってもらえれば」
 新潮社・一七二八円。 (宮川まどか)
    −−「【書く人】感動を共有するために『数学する身体』 独立研究者・森田真生さん(30)」、『東京新聞』2016年02月07日(日)付。

        • -





http://www.tokyo-np.co.jp/article/book/kakuhito/list/CK2016020702000176.html


Resize0208



数学する身体
数学する身体
posted with amazlet at 16.02.17
森田 真生
新潮社
売り上げランキング: 3,829