覚え書:「【書く人】もがきながら楽しむ 『へろへろ雑誌『ヨレヨレ』と「宅老所よりあい」の人々』編集者・鹿子裕文さん(50)」、『東京新聞』2016年01月31日(日)付。

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【書く人】

もがきながら楽しむ 『へろへろ雑誌『ヨレヨレ』と「宅老所よりあい」の人々』編集者・鹿子裕文さん(50)

2016年1月31日


 老後は、不安に満ちている。食うや食わずの下流老人になるか、施設で身体拘束か、孤独死か。超高齢社会は暗い話であふれている。最近の流行は「認知症予防」。ぼけるのも自己責任なのかい…。ため息が出るが、「ぶっとばせ貧老!」という帯の文字に背中をどやされた気になった。
 これは、フリーの編集者の著者が、福岡市内の小さな老人介護施設「宅老所よりあい」の活動にひょんなことでかかわった、悪戦苦闘と希望の記録だ。
 東京での雑誌編集者時代は、ヘアヌード特集で一世を風靡(ふうび)した。もちろん介護問題とは無縁だった。故郷の福岡に戻り、「ぼけても家や地域で普通に暮らせるようにする」がモットーの「よりあい」の村瀬孝生代表、下村恵美子元代表と知り合った。そして、特別養護老人ホーム建設の活動に巻き込まれた。
 「まあ、濁流に呑(の)み込まれたというか。僕みたいなふつうの老若男女が『面白そう』と活動して、なんと三億円超のお金が集まり、特養ホームが完成してしまった」という。自ら手弁当で働き、バザーで資金集めに駆けずり回った。
 そして「無償で動けば無償でお返しがくる」と気付いた。「国は生存権にかかわる介護問題をサービス産業として民間委託してしまった。低賃金で重労働の介護職は常に人手不足。だから、介護問題でこれから大事なのは、気心知れた人間関係をつくること。義理とかお互いさまの精神で助け合うことです」
 近隣で助け合う「地域の再生」が無理でも、「疑似再生」はできると考える。「少子化で若者が少ないから、六十代くらいの動ける人が八十代以上の人を何となく気にかけて世話をする。そんなことを繰り返していけないだろうかと」
 二年前からは「よりあい」で起きるドタバタだけを取り上げる雑誌『ヨレヨレ』をただ一人で発行する。命名は「老人介護施設だし職員もヨレヨレだし」という理由。ぼけたじいちゃんとばあちゃんの珍問答、応援してくれる詩人谷川俊太郎さんとのトークショー、職員によるお年寄りの看取(みと)り日記まで。絶妙な力の抜け具合が笑わせる。
 一度きりの人生、もがきながら楽しもう。そんな「へろへろ」と肩の力を抜いたところに、切実さと真実が宿る。帯の文字はこう続く。「未来はそんなに暗くない」
 ナナロク社・一六二〇円。 (出田阿生)
    −−「【書く人】もがきながら楽しむ 『へろへろ雑誌『ヨレヨレ』と「宅老所よりあい」の人々』編集者・鹿子裕文さん(50)」、『東京新聞』2016年01月31日(日)付。

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へろへろ 雑誌『ヨレヨレ』と「宅老所よりあい」の人々
鹿子 裕文
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