覚え書:「澤田隆治さん(メディアプロデューサー)と読む『定本 日本の喜劇人』(全2冊) [文]石田祐樹」、『朝日新聞』2016年01月24日(日)付。

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澤田隆治さん(メディアプロデューサー)と読む『定本 日本の喜劇人』(全2冊) 
[文]石田祐樹  [掲載]2016年01月24日
 
■「笑い」を批評の対象にした

『定本 日本の喜劇人』(全2冊)[著]小林信彦 (新潮社・1万260円)

 僕は、戦後はじめて、映画を大っぴらに見られるようになった世代です。戦争中は、学校で引率されて見た戦意高揚の作品だけ。朝鮮半島から富山県の高岡に引き揚げてきましたが、その反動もあって娯楽映画ばかり見ていました。やがて僕と兄貴を残して、家族が大阪に行く。寂しいから、ハッピーエンドのものしか見たくない。喜劇映画だけ追いかけました。それが、のちのお笑いやコメディー番組作りにつながるんでしょう。
 1955年、大阪の朝日放送に入って演芸番組を担当し、62年に始めたのが、藤田まこと主演の「てなもんや三度笠」です。6年続いて、最高視聴率は関西64・8%、関東42・9%となりました。でも、はじめは大変でした。
 そんな中、最初に批評してくれたのが小林信彦さん(当時は中原弓彦名義)です。小林さんは、喜劇映画に出てくるギャグを文章にし、〈G(ギャグの略)1〉〈G2〉と、ナンバーを振って分析する連載をしていました。ビデオのない時代に、すごいことです。
 その小林さんが「関西風のアチャラカとスラップスティック趣味がまじった、今のテレビ・コメディ中、最も笑わせる番組だ」と書いてくれた。放送は空中に消えるメディアなので、批評の対象にならないとされていた時に、僕のねらいを的確にわかる人がいることが、どれほど自信になったか。
 この本では、小林さんが朝日放送を訪ねると「オーソン・ウェルズがふてくされたような大男が現れて、『澤田です……』と名刺をつき出した」「『いやあ、喜劇いうのは、しんどいですねえ……』相手はかまわずしゃべり始めた」と、書いてくれています(笑い)。
 古川緑波榎本健一植木等渥美清藤山寛美伊東四朗……この本は、小林さんの見た喜劇人史です。やっさん(横山やすし)など、僕と見方が違う点もありますが、これで彼も、初代桂春団治のように「伝説」になったと思います。
 (構成・石田祐樹
    −−「澤田隆治さん(メディアプロデューサー)と読む『定本 日本の喜劇人』(全2冊) [文]石田祐樹」、『朝日新聞』2016年01月24日(日)付。

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