覚え書:「くらしの明日 私の社会保障論 子どもの貧困「見える化」=湯浅誠」、『毎日新聞』2016年2月10日(水)付。

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くらしの明日
私の社会保障論 子どもの貧困「見える化」=湯浅誠

毎日新聞2016年2月10日 東京朝刊
 
実態深刻 画期的な沖縄県調査

 「食料買えず43%」「沖縄 子の30%が貧困」とショッキングな数字が1面トップに並んだ。1月30日付の琉球新報沖縄タイムスの紙面だ。その日は、総合面、社説、社会面に加え、見開き2枚を丸々使った特集面が組まれた。

 両紙が特に力を入れたのは、前日に県の「沖縄子ども調査」の中間報告があったからだ。

 調査の結果、沖縄の子供の相対的貧困率は29・9%(全国平均16・3%)、ひとり親世帯の貧困率58・9%(全国平均54・6%)といった基本データのほか、この1年間で必要な食料を買えなかったことのあるひとり親世帯が43%、子が小学校1年の時点で、すでに大学進学を断念している貧困世帯が28%といった実態調査結果も発表された。

 県は、この調査結果に基づいて、今年度中にも「子どもの貧困対策推進計画」を策定するという。

 国が2013年に制定した「子どもの貧困対策推進法」と、それに基づく「大綱」で、地域版の子供の貧困調査をするように求めている。しかし従来、地域版の貧困率算出は技術的に難しいと言われていた。給与明細や社会保障給付といった諸費用をうまく突き合わせられないのだという。多くの自治体で調査は進んでいなかった。実態が分からなければ対策も打てない。

 貧困の特徴は「見えない」ことにある。本当は「ある」のに、見えないことから「ない」こととされやすく、実際そうされてきた。日本政府が国内の貧困の存在を公的に認めたのは、わずか7年前のことだ。まだ、実態の認知と対応の必要性が広く共有されているとは言えない。

 そんな中で、沖縄県は今回の調査を通じて、県内の子供の実態を「見える化」し、それが技術的にも可能であることを示した。明らかになった実態は深刻だが、同等またはそれ以上に、地域版貧困率の算定が可能であることを示したことに価値がある。

 これは、必ずしも順調に進んでいない他の自治体調査に大きな影響を及ぼすだろう。その意味で、この調査は“画期的”だった。

 ところが全国紙は、これを報道しなかった。子供の貧困問題に比較的熱心な毎日新聞朝日新聞も雑報ですら扱っていない。大多数の日本国民にとって、沖縄調査はまだ「ない」ことになっている。

 見えにくい貧困を、見えるようにするためには、人一倍の努力が必要だ。沖縄の子供たちの現状を「見える化」した関係者の努力に報いるためにも、メディアにはこれからでもフォローアップを求めたい。深刻な実態と調査の意義を広く伝えるとともに、他の自治体もこれに続くよう促してくれることを望む。(社会活動家)

 ■ことば

子どもの貧困対策

 平均的な年収の半分を下回る世帯で暮らす17歳以下の子の割合は12年に16・3%で過去最悪。学力や進学、就労にも影響することから、世代間連鎖も指摘されている。「子どもの貧困対策大綱」で都道府県にも貧困対策の計画策定を求めている。
    −−「くらしの明日 私の社会保障論 子どもの貧困「見える化」=湯浅誠」、『毎日新聞』2016年2月10日(水)付。

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