覚え書:「文化の扉:はじめての盆栽 自然や人生を凝縮、海外でも人気」、『朝日新聞』2016年02月14日(日)付。

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文化の扉:はじめての盆栽 自然や人生を凝縮、海外でも人気
2016年2月14日

はじめての盆栽<グラフィック・甲斐規裕>

 庭の盆栽にボールが当たり、おじいさんに怒られる子ども——。昔は漫画の場面にあるように年配者の趣味との印象もあった盆栽ですが、今では「BONSAI」として世界で人気です。

 盆栽が鉢植えと根本的に異なるのは、自然の持つ力を引き出しながら小さな鉢の上に一つの景色を作り上げていく点にある。「生きた芸術」とも言われる盆栽はどう生まれ、広まってきたのだろう。

 公立初の盆栽専門美術館であるさいたま市大宮盆栽美術館によれば、盆栽(鉢植え)を描いた最も古い記録の一つが中国・唐時代の壁画。日本では、平安時代終わりまでに伝わっていただろうと考えられるという。

 「盆山」などと呼ばれ、屋内で楽しむことの少なかった盆栽が花開いたのは、江戸時代。江戸末期以降には京都などで中国趣味が流行し、文人が新たな盆栽の担い手に。煎茶会の場では盆栽が座敷飾りの道具として置かれ、屋内で鑑賞されるようになった。

 近代に入り、政財界人に愛された一方、盆栽は芸術と主張する運動も起きた。これを機に、1934年から続く日本最大の盆栽展「国風盆栽展」が今の東京都美術館でスタート。美の殿堂で展示され、盆栽は園芸趣味から芸術へと飛躍した。

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 盆栽には基本的な味わい方がある。大宮盆栽美術館の田口文哉学芸員によると、盆栽を見る時はまず、鉢の形や木の姿などから正面を見極めること。特に松の場合、人が手を広げたように枝葉が左右に広がり、横から見ると軽く会釈したような形が美しいとされる。

 もう一つは、全体を見た後に少しかがんで見ること。手入れが行き届いているものほど大樹感を味わえ、大木の下にいるかのような安心感に包まれるはずだ。

 「ジン」「シャリ」と呼ばれる白い枝や幹は、老木の風格を感じさせるポイント。いわば白骨化した状態だ。シャリは仏の骨を意味する仏舎利が由来とされ、ジンは諸説あるが、「一つの盆栽の中に生と死が同居している。まさに人間の世界と同じことです」と田口学芸員は語る。

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 64年の東京五輪や70年の大阪万博の期間中、盆栽展が開かれ、その後、世界各地で愛好家団体が誕生した。海外での需要も増え、盆栽の産地である香川県などは、海外の販路開拓に積極的だ。

 スペイン・カナリア諸島で盆栽教室を開くホセ・アクーニャさんは「盆栽は樹木とコミュニケーションをとりながら形を作っていくアートのよう。そこがガーデニングとは違います」と言う。

 国内外の盆栽イベントでも活躍する盆栽師の平尾成志さん(34)によると、欧州ではアート、中国では縁起物ととらえるなど、芸術性を尊重しつつ、ライフスタイルなどにより盆栽との向き合い方に違いがある。樹種も様々で、イタリアではオリーブの木、南国ではハイビスカスなど、地域に合わせた形で盆栽文化が根付いている。「盆栽が生活に及ぼす効果や価値観をきちんと伝えていくことが、深く長く楽しむことにつながるのではないでしょうか」(安斎耕一)

 <読む> 「盆栽の誕生」(大修館書店)と「盆栽」(角川ソフィア文庫、いずれも依田徹著)がオススメ。前者は盆栽の歴史をひもとく内容で、後者は豊富なカラー図版を交え盆栽の見方などを紹介している。

 <見る> さいたま市大宮盆栽美術館(同市北区土呂町)では名品盆栽や盆器、水石、絵画資料などを公開している。19日〜3月30日は特別展「世界のBONSAIへ 1945−1989」を開催。観覧料は一般300円。木曜休館。観覧後は、盆栽園が点在する「大宮盆栽村」の散策へ。盆栽村は、東京の団子坂(文京区千駄木)周辺にあった盆栽業者が関東大震災を機に移ってきたのが始まり。

 来年4月には28年ぶりにさいたま市で「第8回世界盆栽大会inさいたま」が開かれる予定だ。

 ■かわいくて、癒やされる 女流棋士・竹俣紅(たけまたべに)さん

 盆栽を初めて手に入れたのは、小学4年生の頃。ためたお年玉で買った小さな桜の盆栽でした。盆栽に堅いイメージを抱いていたのですが、桜の盆栽は花が鮮やかで、盆栽っぽくないんですよ。

 将棋ファンの方などにいただき、今では12鉢くらいに増えました。小品盆栽という小ぶりの盆栽ばかりですがとってもかわいくて、癒やされます。観葉植物のような感覚で楽しんでいます。

 ちょうど今年から「盆栽世界」という雑誌で、私が先生に教えて頂きながら盆栽を学ぶ連載が始まりました。先日、先生から手順を聞いて初めて盆栽の植え替えに挑戦したんです。

 将棋でも基本の定跡は本を読んだりすれば一通り覚えられますが、そこから先は自分で考えて手をひねりだしていかなければいけません。そういう点からも、盆栽と将棋は似ているところが多いですね。

 いまは高校2年で、周りにも盆栽に興味を持つ友達はいます。でも始めるには、ハードルが高いようで……。いずれはかわいいキャラとコラボした鉢を作ってみたい。鉢を変えるだけで雰囲気は変わってくるし、女の子もそういうのが好きだと思うんです。

 ◇「文化の扉」は毎週日曜日に掲載します。次回は「論壇」の予定です。ご意見、ご要望はbunka@asahi.comメールするへ。
    −−「文化の扉:はじめての盆栽 自然や人生を凝縮、海外でも人気」、『朝日新聞』2016年02月14日(日)付。

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http://www.asahi.com/articles/DA3S12209015.html





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