覚え書:「Topics 中島岳志さんと島薗進さん対談 日蓮、親鸞が導いた国家主義 『愛国と信仰の構造』刊行」、『毎日新聞』2016年2月16日(火)付。

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中島岳志さんと島薗進さん対談 日蓮親鸞が導いた国家主義 『愛国と信仰の構造』刊行

毎日新聞2016年2月16日 東京夕刊

(写真キャプション)中島岳志・北海道大准教授=東京都千代田区で、鈴木英生撮影
 中島岳志・北海道大准教授(政治思想)と島薗進上智大特任教授(宗教学)の対談本『愛国と信仰の構造』(集英社新書、842円)が17日に刊行される。日本近代の政治思想に目配りする中島さんと、新宗教国家神道の研究で知られる島薗さん。中島さんに、本書の核となる議論を解説してもらった。

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 中島さんは本書で、特に戦前、知識層の一部や軍人が担った宗教ナショナリズムを論じている。「明治以降、近代化の過程で『自己とは何ぞや』という問いに直面し煩悶(はんもん)した青年たちが、宗教を通して国体論的で危険なナショナリズムに結びついた」

 知識青年の一部は、理想的な社会像を「一君万民」、つまり天皇の下での平等な世界に求めた。「国民国家形成のために使われた『神話』が、彼らの実存的な不安、世界と合一化したいという欲求の『よりどころ』となったのです」

 国柱会など日蓮宗系の宗教運動は、個人とナショナリズムを直結させた。国柱会は、詩人の宮沢賢治も参加した。「自己犠牲でユートピアを実現するという賢治の思考に、国柱会の影響を感じます」

 他方、世界観を提供する国体論とは、いわば役割分担して個人の内面の問題を引き受けたのが、「浄土真宗系の思想です」という。

 戦前、左翼だけでなく大川周明ら右翼をも攻撃した原理日本社は、浄土真宗に近かった。「他力(阿弥陀(あみだ)仏に任せること)信仰や親鸞自然法爾(じねんほうに)(ありのまま)の思想が、現状を肯定しない全ての議論を攻撃する裏付けになってしまった」。彼らは、「何もするな」と他者を攻撃する、いわば「自力」主義に陥った。

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 他方の島薗さんは、教育勅語軍人勅諭で教育された民衆が、自ら国家神道の担い手として暴走していったと論じた。真宗大谷派のカリスマ僧侶、暁烏敏(あけがらすはや)は、象徴的存在だ。布教を通して民衆の心情に触れるうちに、天皇崇敬や戦意高揚を教義解釈に持ち込んでいった。「私の分析した『上から』の宗教ナショナリズムと、島薗さんが論じた『下から』のそれが合わさって破局に至った」

 目指すべき世界観を提示する国体論と個人の実存に関わる「親鸞主義」の組み合わせは、戦後のマルクス主義実存主義の関係にも似る。「戦後は、左派が『煩悶青年』を引き受けたと言えます」

 そして今、浅薄な右派的言説をあおる新興宗教や宗教ナショナリズムが、再び一部で受けている。「だからこそ、戦前の親鸞主義や日蓮主義を再考しつつ、現状での宗教のあるべき役割を探る必要があります」【鈴木英生】
    −−「Topics 中島岳志さんと島薗進さん対談 日蓮親鸞が導いた国家主義 『愛国と信仰の構造』刊行」、『毎日新聞』2016年2月16日(火)付。

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