覚え書:「高市総務相『電波停止』発言 個別番組へ干渉? 広がる懸念」、『毎日新聞』2016年02月22日(月)付。

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高市総務相
「電波停止」発言 個別番組へ干渉? 広がる懸念

毎日新聞2016年2月22日 東京朝刊

「電波停止」発言
(写真キャプション)衆院予算委員会放送法に関する質問を聞く高市早苗総務相。手前は答弁に立つ安倍晋三首相=国会内で2016年2月15日、藤井太郎撮影

 高市早苗総務相放送法4条の「政治的公平」の解釈について、一つの番組だけでも放送局に電波停止を命じる可能性に言及し、総務省は「一つ一つの番組を見て全体を判断する」との政府統一見解を出した。総務省はこれまで「放送事業者の番組全体を見て判断する」としており、憲法の専門家からは「個別の番組への干渉にならないか」と懸念する声が上がる。テレビを巡る表現の自由は守ることができるのか。

高市氏の「停波」発言 ホントの怖さ>
<「電波停止」 波紋広げる理由>
 「踏み込んだ感じがする。萎縮しているわけではないが、『一つ一つの番組』と言われると個別の番組名が浮かぶ気がする」。在京テレビ局で働く男性は政府統一見解について、そう語った。

 男性が警戒感を強めるのには、理由がある。2014年の衆院選前、安倍晋三首相がTBSの報道番組に出演中に番組内容を批判したのを受けて、自民党が在京各局に選挙報道の「公平中立」を求める文書を手渡した。

 その6日後にはテレビ朝日に対し、報道番組の経済政策の取り上げ方を巡って放送法の規定を持ち出し「公平中立な番組作成に取り組む」よう要請文を送った。昨年4月には自民党の調査会が、テレビ朝日とNHKの番組内容について、両局幹部を呼んで事情を聴いた。

 こうした経緯があった中で、高市氏は今月8日以来、国会答弁で放送法の「政治的公平」や放送局の電波停止に度々言及している。

 放送法4条は番組編集に当たって「政治的公平」「事実をまげない」「意見が対立する問題は多角的に論点を明らかにする」ことなどを規定している。この4条の規定について放送倫理・番組向上機構BPO)の放送倫理検証委員会は昨年11月、「放送事業者が自律的に番組を編集する際の基準、『倫理規範』だ」との意見を出した。この考え方は、憲法の専門家の通説となっている。

 一方、総務省は従来、4条について「法規範」であり違反した場合は電波法76条により電波停止命令を出せると解釈してきた。そして4条の「政治的公平」に関しては、放送局の番組全体を見てバランスが取れているかどうか判断するとしてきた。

 高市氏は今回の「電波停止」答弁について、従来の総務相らの答弁を踏襲したものだとしている。ただ、昨年12月に市民団体からの質問に答えた文書で、選挙期間中に特定の候補者ばかりを取り上げる報道などを例に挙げ「一つの番組のみでも、極端な場合においては、一般論として『政治的に公平であること』を確保しているとは認められない」「国会答弁でも申し上げている」とした。

 総務省は12日、こうした高市氏の発言を整理する形で、「これまでの解釈を補充的に説明し、明確にしたもの」「(政治的公平は)一つ一つの番組を見て、全体を判断する」との政府統一見解を出した。

 渋谷秀樹・立教大教授(憲法)は「『一つ一つを見る』とする統一見解は、全体としてバランスを取ればよいとする従来の解釈を逸脱している。個別の番組を見るなら、政府機関に不都合なものをチェックすることになり、表現の自由を確保するために放送の自律を保障する放送法1条に違反する」と話す。【青島顕】

独立機関が審査 欧米

 欧米では政府から独立した機関が放送局に対する許認可権を持ち、放送内容に意見する。メンバーは国会で承認を受けることが多く政治的影響は皆無とは言えないが、政府が番組内容に関わる統一見解を示し、総務相が電波停止の権限を持つ日本とは、仕組みが大きく異なる。

 ●米国

 米国は政府から独立した連邦通信委員会(FCC)が、放送免許の付与や取り消し、規則の制定など幅広い権限を持っている。委員は5人。委員長は大統領と同じ政党から、残る4人は共和党民主党から2人ずつ選ばれるのが通例となっている。

 放送内容に問題があると罰金を科すこともあり、2004年には胸を露出した女性と下着姿の男性が出演する「わいせつな番組」を放送したとして、FOXテレビと系列局に約1億3000万円の罰金を科した。

 ただし1987年には視聴者が多様な意見に触れる機会を確保するとしてFCC規則から「公正原則」を削除した。各局は原則として政治的中立性にとらわれずに報道できる。

 ●英国

 英国では、政府から独立した規制機関である放送通信庁(オフコム)が放送の免許付与や監督などを担っている。正確で公平な報道を求める「番組基準」を制定し、基準が順守されているか監視している。意思決定機関であるオフコム役員会は、通信産業の経営者やジャーナリズム研究者ら9人で構成する。

 さらに公共放送の英国放送協会(BBC)には、問題のあった番組の調査を含め業務全体を監督する「BBCトラスト」が置かれている。委員12人は新聞などで公募され、ジャーナリスト、元公務員、学識経験者などから幅広く選ばれている。

 議会で質疑応答などを経て推薦されるため、政治の影響も一定程度受ける。報道への政府の干渉を完全に排除できているわけではない。

 ●ドイツ

 ドイツではナチスに放送を利用された教訓を生かし、放送の監督権限は中央連邦政府になく、各州に分けられている。多様な意見に配慮し、公平公正な放送に努めるよう求める点は共通するが、放送法も州ごとに制定されている。

 各州に、州政府から独立して放送の認可や番組の監督を行う機関がある。11ある公共放送にはそれぞれ経営委員会があり、民間放送には州メディア監督機関が置かれている。

 それでも、人事権を利用して政党が放送に影響を与えようとしたことがある。14州と2特別市が共同で設立した公共放送の第2ドイツテレビ(ZDF)では09年、当時の報道局長の任期延長を保守政党の影響の強い経営委員会が拒否した。

 この問題を巡っては連邦憲法裁判所が14年3月、経営委員14人のうち半数近い6人が州政府や政党の関係者で占められている状態を問題視し「放送の自由が損なわれている」と一部違憲判決を出している。

       ◇

 日本でも第二次大戦後、連合国軍総司令部(GHQ)の意向を受け、米国のFCCにならった独立行政機関「電波監理委員会」が50年に設置され、放送を含む電波行政を担当した。しかし、占領が終わった52年、吉田茂内閣が同委員会を廃止し、権限を郵政相(現在の総務相)に移した。【丸山進】
    ーー「高市総務相『電波停止』発言 個別番組へ干渉? 広がる懸念」、『毎日新聞』2016年02月22日(月)付。

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