覚え書:「今週の本棚・新刊:『エロスと「わいせつ」のあいだ 表現と規制の戦後攻防史』=園田寿、臺宏士・著」、『毎日新聞』2016年02月28日(日)付。
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今週の本棚・新刊
『エロスと「わいせつ」のあいだ 表現と規制の戦後攻防史』=園田寿、臺宏士・著
毎日新聞2016年2月28日 東京朝刊
(朝日新書・842円)
「春画」の展覧会や週刊誌掲載を巡る騒動など、直近の具体的な問題を、当事者へのインタビューも交えて詳報する。「表現の自由」について、一線で向き合ってきた学者とジャーナリストらしい一冊だ。
現在と向き合うには、過去を知る必要がある。戦前にも目配りしつつ、「チャタレイ裁判」に始まる、性表現を巡る戦後の重要な司法判断を再検証する。インターネットで情報が容易に越境するなか、早くからサイバー空間の問題・犯罪を注視してきた2人は、現状の法制度の限界を的確に指摘する。
滑稽(こっけい)さの頂点は、園田がポルノ漫画を巡る裁判で弁護側の学者証人になった際、「あなたはこの手の本を見過ぎているから、感覚が麻痺(まひ)している」との趣旨の判決文を書かれてしまったという余談。この種の司法のおかしみは、「良心」に従うべき裁判官らの心が、むき出しに見えるからだ。「わいせつ」を指弾し切るには、自身の無謬(むびゅう)を信仰せずにはいられない。だから、「保護されるべき青少年」や「捜査を要請した市民」の声を借りるしかなくなる。あやふやな「生=性」を棚に上げることは、誰にもできない。(も)
−−「今週の本棚・新刊:『エロスと「わいせつ」のあいだ 表現と規制の戦後攻防史』=園田寿、臺宏士・著」、『毎日新聞』2016年02月28日(日)付。
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