覚え書:「書評:1998年の宇多田ヒカル 宇野維正 著」、『朝日新聞』2016年02月28日(日)付。
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1998年の宇多田ヒカル 宇野維正 著
2016年2月28日
◆刺激し合うカリスマ
[評者]土佐有明=ライター
日本でもっとも多くCDが売れた年として記憶される一九九八年。この年にデビューした宇多田ヒカル、椎名林檎(りんご)、aiko、浜崎あゆみが本書の主役である。創作面で未(いま)だピーク期にある彼女たちだが、実はまとまった評論がこれまで発表されていない。それが本書を書く動機のひとつだったそうで、実際、示唆に富む考察が数多く展開されている。
例えば、宇多田は編曲やプログラミングやプロデュースを自らこなす一方、数えるほどしかライヴを行っていない、「スタジオの音楽家」だという指摘。確かに、彼女の音楽の特徴である密室感や親密さは、小さな頃からパソコンで音楽を作り、スタジオで長時間を過ごしてきたその来歴を考えると腑(ふ)に落ちる。
またフロントに立って脚光を浴びるカリスマだと思われがちな椎名林檎については、SMAPや石川さゆりに楽曲を提供している昨今の活動を挙げ、本人は職業作曲家希望であることを照らし出す。
さらに、この四人が常にお互いを刺激し合ってきたという記述も重要。宇多田と椎名はユニットを組んだこともある旧友だし、aikoと椎名はアマチュア時代に同じコンテストに出場していた。浜崎は宇多田のカヴァーで彼女への敬意を表明している。それぞれの存在を意識することが、四人を創作へと駆り立てたという事実が、本書を読むとよく分かる。
(新潮新書・799円)
<うの・これまさ> 1970年生まれ。映画・音楽ジャーナリスト。
◆もう1冊
宇多田ヒカル編著『点』『線』(ともにEMI)。思いをつづった文章、インタビュー、日記、写真などを収録。
−−「書評:1998年の宇多田ヒカル 宇野維正 著」、『朝日新聞』2016年02月28日(日)付。
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http://www.tokyo-np.co.jp/article/book/shohyo/list/CK2016022802000183.html