覚え書:「書評:小倉昌男 祈りと経営 森健 著」、『朝日新聞』2016年02月28日(日)付。

Resize1214

        • -

小倉昌男 祈りと経営 森健 著

2016年2月28日

◆福祉に献身した理由
[評者]吉田司=ノンフィクション作家
 あのクロネコヤマトの「宅急便」を作り、不公平な運輸行政と闘い、戦後の物流業界を革新した名経営者・小倉昌男。彼の人生には不可解な謎がいくつもある。最大の謎は、引退後に私財四十六億円を投じてヤマト福祉財団を設立し、後半生を障害者自立支援運動にささげたことだ。なぜ畑違いの福祉の世界にジャンプしたのか。本書はその小倉の心の奥に隠された苦悩と神への祈りに光を当てた謎解きノンフィクションの秀作である。
 <神>とは、小倉夫妻はともにクリスチャンで、妻はキリスト教的社会奉仕に憧れていた。<苦悩>とは、その妻がうつ病をかかえ、娘も精神障害があり、二人は激しく衝突し争いが絶えなかった。病気になるほど妻子を追いつめた原因は何だったのか。妻が死んだ時、小倉は娘に言う。「パパのせいなんだ」。とすれば、彼の社会福祉への献身は妻子への贖罪(しょくざい)だったのか。それとも…。緊張をはらんだ物語展開で引き込まれる。
 ただ欧米では、ビル・ゲイツが慈善団体を設立したり、フェイスブックザッカーバーグが五兆五千億円を社会貢献のために寄付と公表したように、福祉・慈善は成功した経営者のステータス・シンボルでもある。そうしたキリスト教的博愛・伝統の上に小倉を置けば、さらにグローバルなスケールの謎解き物語に進化したかも、と少し惜しい気もする。
小学館・1728円)
 <もり・けん> 1968年生まれ。ジャーナリスト。著書『「つなみ」の子どもたち』など。
◆もう1冊
 小倉昌男著『経営はロマンだ!』(日経ビジネス人文庫)。官と闘った硬骨の経営者が自らの歩みと人生哲学を語る。
    −−「書評:小倉昌男 祈りと経営 森健 著」、『朝日新聞』2016年02月28日(日)付。

        • -





http://www.tokyo-np.co.jp/article/book/shohyo/list/CK2016022802000184.html








Resize0810