覚え書:「【書く人】報道の裏にある謎解く 『真実の10メートル手前』 作家・米澤穂信さん(37)」、『東京新聞』2016年03月06日(日)付。

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【書く人】

報道の裏にある謎解く 『真実の10メートル手前』 作家・米澤穂信さん(37)

2016年3月6日

 ネパールを舞台にした長編小説『王とサーカス』で、二〇一四年の『満願』に続いて二年連続ミステリーランキング三冠の快挙を達成。本作は『王とサーカス』の主人公で新聞記者からフリージャーナリストに転身した女性、太刀洗万智が別の事件に挑む短編集だ。
 表題作では、時代の寵児(ちょうじ)から転落したベンチャー企業の女性広報担当者を追跡。メディアに翻弄(ほんろう)された者の悲劇を描いた。「名を刻む死」では、無名の男性の孤独死を通じて人間のエゴをあぶり出した。「綱渡りの成功例」では、災害ニュースの真相を暴き、心地よい美談を求める社会を皮肉った。それぞれのエピソードから、一見冷徹で近寄りがたい太刀洗の人間的魅力が浮かび上がる。
 もともと太刀洗は二〇〇四年の『さよなら妖精』に登場したキャラクター。同作は旧ユーゴスラビアの民族紛争と日本の普通の高校生の日常を結び付けた。「当時どんな報道を見ても理解できなかった」との理由で、米澤さんがユーゴ紛争を大学の卒論テーマにしたのが下敷きになったという。
 太刀洗の関連作品に共通するのは、報道と真実のギャップに対する鋭い問い掛けだ。米澤さんは「報道や情報は世の中を回す上で極めて重要なこと。インターネットが発達し、誰もが発信者たり得る時代。作家としていかに情報と向き合うかという自戒が根底にありました」と説明する。
 作風は幅広い。若者に支持される学園ものをはじめ、『インシテミル』では思考実験のような殺人ゲーム、『折れた竜骨』では剣と魔術のファンタジー、『王とサーカス』では国際社会に踏み込んだ。いずれもタッチが違うが、謎解きという背骨がぴんと通っている。
 「自分は理で割り切るタイプ。それがミステリーに合っている」と米澤さん。「十五年間作家をやってつくづく感じるのは、理で割り切ってなお余るところが、ミステリーの豊かさだということ」と語る。原稿用紙千枚を費やすのは、その余韻を生むためという。
 引き出しの多さが武器だが、昔から器用貧乏になることを警戒してきた。「だからこそ自分はミステリーにこだわりたい。いろいろな方法を取り入れても中心はミステリーにする。ぶれない軸をもってぐるぐる回る独楽(こま)のように」
 次は悪女を描いた新作を発表するつもりだ。
 東京創元社・一五一二円。 (岡村淳司)
    −−「【書く人】報道の裏にある謎解く 『真実の10メートル手前』 作家・米澤穂信さん(37)」、『東京新聞』2016年03月06日(日)付。

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