覚え書:「書評:自転車で見た三陸大津波 武内孝夫 著」、『東京新聞』2016年03月13日(日)付。


Resize1359


        • -

自転車で見た三陸津波 武内孝夫 著

2016年3月13日

◆防潮堤への思いそれぞれ
[評者]川島秀一=東北大教授
 本書は東日本大震災後の二〇一三年春から一五年秋にかけて、被災地である三陸沿岸を自転車で移動しながら見て取材したルポルタージュである。
 特に「瓦礫(がれき)が片づいたあとのサラ地の広がりのなかに高い防潮堤がそびえていて、それでこの建造物に注目することになった」と記しているように、<防潮堤>を大きなテーマとする。
 ただ著者は、防潮堤に対して、マスコミで騒いでいるような反対や賛成という明確な立場で報告しているわけではない。むしろ虚心になって、三陸沿岸に住む人々から、津波や防潮堤に対する思いに耳を傾けている。
 自転車という「取材ツール」は、立ち止まっては道端の人々から、話を聞き出すことを容易にした。また、走りながら見るという姿勢も、旅する者のみが知る地域の違いを把握できた。
 三陸沿岸の防潮堤は、高度成長期を中心に、多くの浜々で建設されたが、被災した過去の防潮堤は、岩手県のほうが宮城県より高い。つまり「防潮堤は過去に津波によってもたらされた悲劇が大きいところほど高い」ことが知らされ、今回の大津波では、防潮堤があるために油断して避難しなかった者もいた一方で、この防潮堤自体が「震災モニュメント」の役割を果たしたために避難者も多かったという。
 「漁師で防潮堤が必要だと言う人はゼロ」と語る漁師たちでも、「できればカンベンしてもらえねえかな」という感じの非であり、防潮堤反対の急先鋒(きゅうせんぽう)は都会の識者だという。
 三陸沿岸は浜々によって被災の仕方も違えば、津波や防潮堤に対する考え方も違う。自転車による取材は、そのことも、ていねいに炙(あぶ)りだした。
 本書の二箇所で「津波文化」という言葉を用いているが、防潮堤もその一つとして認められる。三陸の浜々の人々の防潮堤の利用の仕方によって、無用の構造物になるか、豊かな相貌を示すかの別れ際になるであろう。読了して最初に感じたことである。
 (平凡社・1944円)
<たけうち・たかお> 1958年生まれ。フリーライター。著書『帝国ホテル物語』。
◆もう1冊 
 山口弥一郎著『津浪と村』(三弥井書店)。一九三三年の三陸津波で被災した集落の被害調査と、復興や家の再興についての聞き書き
    −−「書評:自転車で見た三陸津波 武内孝夫 著」、『東京新聞』2016年03月13日(日)付。

        • -




http://www.tokyo-np.co.jp/article/book/shohyo/list/CK2016031302000199.html



Resize1078


自転車で見た三陸大津波: 防潮堤をたどる旅
武内 孝夫
平凡社
売り上げランキング: 414,949