覚え書:「書評:親鸞 末木文美士 著」、『東京新聞』2016年04月03日(日)付。

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親鸞 末木文美士 著

2016年4月3日
 
◆思想展開 ダイナミックに
[評者]釈徹宗=僧侶・宗教学者
 末木の著作は方法論や執筆意図を明示するところに特徴がある。また、彼の「思想史の方法論」は実に魅力的である。ときに、そうか思想史という手があったかという気にさせてくれる。本書では歴史の流れと思想の展開を結びつける手法を試みている。つまり、中世社会に生きる人物としての親鸞を見つめ、仏教思想の流れと親鸞自身の思想展開を結びつけ、伝記史料の制作意図や性格を読み取る、といった合わせ技が駆使されていく。結果としてダイナミックな親鸞思想論考となった。
 本書が提示した論点は、ここでは書ききれないほど多岐にわたる。親鸞思想の中に潜む密教性、女犯偈(にょぼんげ)の多義的性格、親鸞の激しい謗法(ほうぼう)への姿勢など、これまでも真宗教学で取り上げられてきた論点も少なくない。末木の論考に真宗学や宗学はきちんと応えることができるのか。活発な議論を期待したいところである。
 ほかにも、「恵信尼(えしんに)文書」を正統性の伝持という文脈から解読したり、聖徳太子法然親鸞のトリニティ的展開を論じたり、オリジナリティの高い部分も多い。和讃(わさん)の創作には儀礼の整備の面があったとするあたりは、我が意を得たりの思いであった。
 このように本書は、親鸞思想を研究する者にとって、まことに刺激的であり新鮮である。しかし、説教や講義の現場では語られてきたという部分もけっこうある。末木が「従来あまりに無視し過ぎてこなかっただろうか」とする往相(おうそう)・還相(げんそう)の連鎖などは、オーラルの領域では結構盛んである。宗教の教義・教学というものは、「語り」では取り扱われるもののそれを著作にするのは困難といった部分がある。ここは史学ではなかなかやっかいな部分であろう。ただこの点も末木は視野に入れており、本書では「語られた親鸞」を重視する姿勢も述べられている。
 「戦う念仏者としての親鸞」論のところは、先年往生した我が師の教えを思い出し、少し目頭が熱くなった。
 (ミネルヴァ書房・3024円)
 <すえき・ふみひこ> 1949年生まれ。東京大名誉教授。著書『浄土思想論』など。
◆もう1冊 
 五木寛之著『はじめての親鸞』(新潮新書)。大河小説『親鸞』三部作を完結させた作家が親鸞の波乱に満ちた生涯と思想を語る。
    −−「書評:親鸞 末木文美士 著」、『東京新聞』2016年04月03日(日)付。

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