覚え書:「書評:新聞投稿に見る百年前の沖縄 上里隆史 著」、『東京新聞』2016年04月10日(日)付。

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新聞投稿に見る百年前の沖縄 上里隆史 著

2016年4月10日


◆腹蔵のない庶民の声
[評者]与那覇恵子=東洋英和女学院大教授・近現代日本文学
 沖縄最初の新聞である琉球新報の投書欄「読者倶楽部(くらぶ)」に掲載された投稿を、「恋愛・結婚」「つぶやき」「不満・苦悩・悲哀」など十二の項目に分類して、百年前(大正一〜四年)の沖縄庶民の声を聞き取ろうとしたのが本書である。
 ちなみにこの琉球新報は最後の琉球尚泰(しょうたい)の四男尚順(しょうじゅん)を中心に、第一回の県費留学生として学習院慶応義塾で学んだ高嶺朝教(ちょうきょう)、太田朝敷(ちょうふ)ら旧琉球士族によって明治二十六年に創刊され、一県一紙制度により昭和十五年に消滅した。現在発行されている琉球新報は、戦後に創刊された別の新聞である。
 さて投稿の内容だが、「辻の遊廓」街の話は喧嘩(けんか)騒動、中学生の徘徊(はいかい)問題なども含めて多彩。ふられた腹いせか「女郎税増税案」の意見も複数ある。巫女(ユタ)撲滅の提案もある。「国民的同化」を社是としていたからではないだろうが、投稿は沖縄語(ウチナーグチ)ではなく標準語で書かれている。
 投稿男性は冷笑しているが、「男尊女卑の世をば、女尊男卑」にしたいと話す、頼もしい少女の姿もある。また、軽便鉄道の開通により「糸満婦人」の健脚や優美端正な体格が失われるとの懸念は、現在の車社会に生きる沖縄人の問題にもつながる。当時の写真や広告・図版も豊富で、時代状況の簡潔な説明もあり、百年前の沖縄の日常が見えてきて興味深い。
 (原書房・2160円)
<うえざと・たかし> 1976年生まれ。早稲田大学琉球・沖縄研究所招聘(しょうへい)研究員。
◆もう1冊 
 岡本太郎著『沖縄文化論』(中公文庫)。古代日本の文化を今に伝える沖縄の民俗と人々の精神をとらえた名著。
    −−「書評:新聞投稿に見る百年前の沖縄 上里隆史 著」、『東京新聞』2016年04月10日(日)付。

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