覚え書:「今週の本棚・本と人 『恋愛詩集』 編著者・小池昌代さん」、『毎日新聞』2016年04月17日(日)付。

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今週の本棚・本と人
『恋愛詩集』 編著者・小池昌代さん

毎日新聞2016年4月17日 東京朝刊

 (NHK出版新書・799円)

何かに焦がれるすべての人へ 小池昌代(こいけ・まさよ)さん
 古今東西、何かに恋い焦がれずにはいられない、すべての人の心を沸き立たせる詩のアンソロジー(詞華集)が生まれた。

 「現代詩はとてつもなく難解か、柔らかな情緒的ポエムかの二極に分化しています。双方の良さを持ち寄ることで、詩の本当の魅力に気づいてほしくて」

 恋愛詩の常識で捉えきれない詩も少なくない。案内人の思いがそこにある。「恋とは男女の恋愛に限らず、あらゆるときめきの源です。そう、橋の上に立つとワクワクしませんか。まど・みちおさんはこう書きました」

橋を渡るときに わたしたちの体が/なんとなく/すきとおってくるような気がするのは/きっと わたしたちが/川の憧れの中を 通るからでしょうね「橋」より

 あるいは、桜や紅葉を目にして心がざわめいた経験なら誰にでもあるだろう。「それが、広い意味での恋なのです。生きる喜びを増幅する関係を、木や花や空と、いいえ、石ころ一つとでさえ、きっと作れるはず」

 喜びの裏には常に悲しみが宿る。「何かにときめく一瞬は必ず過ぎ去り、悲しみが残される。詩とは、何ものにも代えがたい一瞬をすくい取る力です」

 ギリシャの詩人リッツォスは魔術的な一瞬を短詩「井戸のまわりで」に封じた。

スズカケの樹の後ろに誰か隠れている。/石を投げた。壺(つぼ)が一つ壊れた。/水はこぼれない。水はそのままだった。/水面が一面に輝いて我々の隠れているほうを見つめた。

 「人と水の視線がぶつかり合う一目惚(ぼ)れのような瞬間。ほんの数秒で読めて、心の中にパッと花火を打ち上げるような詩があることを知ってほしい」

 詩作の傍ら小説やエッセーも手がけるうち、詩の本質と向き合った。「小説なら1行書いたら読者を振り返り『分かりますか』と確かめますね。詩にはそんな瞬間が一切なく、翼を広げるように一気に駆け抜けてしまえる。夢のような体験です」

 『通勤電車でよむ詩集』の続編にあたる43篇。「この詞華集も、できたら電車の中で読んでほしい。カバーを兼ねたピンクの帯が、男性にはちょっと気恥ずかしいかもしれませんけど」<文・井上卓弥 写真・小出洋平>
    −−「今週の本棚・本と人 『恋愛詩集』 編著者・小池昌代さん」、『毎日新聞』2016年04月17日(日)付。

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