覚え書:「書評:戦後の地層 東京新聞取材班 編」、『東京新聞』2016年05月08日(日)付。
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戦後の地層 東京新聞取材班 編
2016年5月8日
◆9条の空洞化を検証
[評者]吉田司=ノンフィクション作家
安保法制の成立で<自衛隊の戦争>が間もなく始まる、かつての軍国主義へ回帰するのでは…との不安がよぎる。なぜかくもやすやすと、日本は再び「戦争のできる国」になってしまったのか。反省をこめて戦後七十年の反戦平和(憲法九条)の空洞化の歴史を検証した本だ。
核廃絶を訴える平和都市長崎・佐世保の戦後史を見てみよう。長崎は三菱重工が戦艦「武蔵」を造った軍都で、佐世保も軍港だったが、長崎は被爆し、佐世保も破壊された。一九五〇年に佐世保市が平和都市宣言をすると、その五ケ月後に朝鮮戦争が勃発。特需景気でドル札が舞い、米軍は基地を開設し、市は海上警備隊(後の海上自衛隊)を誘致した。平和宣言はあっという間に骨抜きにされた。だから今も平和都市長崎で自衛隊のイージス艦や護衛艦、魚雷が造られている。
本書は「憲法で戦力の不保持を掲げながら、『自衛』という名の武力保持へと方向転換した」と書き、二枚舌の戦後日本の姿を的確に描出している。つまり立憲主義は最初から空洞化していたのだ。
だとすれば、これから日本は「戦前」(軍国化)に戻るのか。それとも安保法制の本質は<アメリカの戦争>の下請け化なのだから「アメリカ」に戻るのか。いいや、どちらも拒否して今度こそ「空洞なき反戦平和」の世を創る道もあろう。どの道を行くのか、決断を迫る書だ。
(現代思潮新社・1944円)
東京新聞(中日新聞東京本社)の社会部を中心にした取材班が執筆。
◆もう1冊
神奈川新聞取材班編『時代の正体(2)−語ることをあきらめない』(現代思潮新社)。報道規制など時代を問う第二弾。
−−「書評:戦後の地層 東京新聞取材班 編」、『東京新聞』2016年05月08日(日)付。
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http://www.tokyo-np.co.jp/article/book/shohyo/list/CK2016050802000175.html