日記:「論壇時評:公明党めぐる論議 理念と政策に溝、本質は=中島岳志」、『北海道新聞』2016年06月01日(水)付夕刊。
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参議院選挙が近づく中、「公明党」論が活発化している。理由ははっきりしている。自民党と連立を組み、安倍晋三内閣を支える中、本来の理念と政治行動の間にギャップが生じているように見えるからである。
公明党は「平和」と「福祉」を看板にしてきた。現在もその路線に変わりはないという。しかし、自民党と協力して安全保障法制を成立させ、小さな政府路線を基調とする政策を支えている。公明党は安倍政権を後押しするアクセルなのか、それとも歯止めをかけるブレーキなのか。公明党の本質が問われている。
■投票「信仰の一環」
島薗進・中野晃一・天野達志・氏家法雄・粟津賢太「安全保障法制に反対し、公明党の方針を危惧する創価学会員に聞く」(「宗教と現代がわかる本2016」、平凡社)では、公明党の現状に批判的な創価学会関係者(天野、氏家、粟津)が実名で登場する。
天野、氏家、粟津の3名は、創価学会員の多くが「とにかく公明党を応援すればいい」と考え、中身をよく吟味せずに支援を展開していると指摘する。天野いわく、創価学会内では「選挙で公明党を勝たせること、イコール庶民と平和を守ること」となり、政策が問われなくなっている。粟津は、投票が政治活動ではなく「信仰の一環」と捉えられることで、反対の余地がなくなってしまうことを問題視する。
氏家によると、自民党との連立の背景には、自民党による1990年代半ばの反創価学会キャンペーンがあるという。この時の経験が「もう二度と叩(たた)かれる側にいたくはない」という選択を優先させ、歯止めなき追随を生んでいると指摘する。
佐高信「自民党と創価学会」(集英社新書)は、さらに公明党・創価学会に対して厳しい見解を示す。かつて公明党は小渕恵三内閣を支え、国旗国歌法や通信傍受法などを成立させたが、この時から「自民党のブレーキになるどころか、完全にアクセルと化していた」。公明党が自民党に接近したのは、理念の一致ではなく、組織を守ることを優先したからだという。
一方、ブレーキ論の代表者は佐藤優だろう。公明党代表の山口那津男との対談「いま、公明党が考えていること」(潮新書)では、公明党こそが安倍内閣を正しい方向へと軌道修正していると論じる。
佐藤によると、公明党は「存在論的平和主義」に立脚している。「公明党は、平和を創るために生まれ、平和を守るために活動し続ける存在だ」。そのため、公明党を応援することこそが、平和を守ることにつながるという。
佐藤は、一連の安保法制の成立過程についても、公明党を高く評価する。公明党によって「自衛隊が海外に出動する条件には厳しい縛りがかけられ」たため、フルスペックの集団的自衛権は行使できないに等しく、「現実的に平和が担保され」たという。また、公明党がけん引した軽減税率の導入は、社会的弱者に配慮した優れた政策と評価し、そこに「人間主義の思想が具現化」されていると評価する。
■現状は「蛇行運転」
「アクセル論」と「ブレーキ論」はどこまでも対立し、なかなか議論が交わらない。公明党や創価学会を扱う論考は、論者の立場が先行するため、支持/批判の二分法にからめ捕られがちである。
公明党の現状は、「アクセル論」と「ブレーキ論」の一方だけを読んでいても理解できない。アクセルとブレーキの両方を踏んでいるため、蛇行運転をしているというのが実態だからだ。アクセルを強く踏んでいるときには自民党側に接近し、ブレーキを強く踏んでいるときは自民党をけん制する。この複雑なバランスと政治過程をどのように論じ、位置付けるのかが、今後の公明党論の課題だろう。
その点、薬師寺克行「公明党 創価学会と50年の軌跡」(中公新書)は、結党以来の歴史を丁寧に読み解き、公明党の理念と変遷を示した好著である。創価学会が公明党を作った目的は、独自の宗教理念を政治的に実現することと同時に、権力から身を守り、選挙運動を通じて組織を維持・発展させることにあった。しかし、69年末に起きた出版妨害事件を機に、政教分離を前面に押し出し、理念の見直しを行った。その後、70年代半ばまでは革新色を強めたものの、次第に現実的な政策を重視するようになり、安全保障政策も大きく変化した。昨年の安保法制をめぐる姿勢は「結党以後の公明党の日米安保条約や自衛隊に関する政策の変遷をたどると、これまでの政策変更の延長線上にあることがわかる」という。
本書は創価学会の宗教理念に対する分析が脆弱(ぜいじゃく)であるものの、公明党の全体像を的確に論じており、今後の議論の土台となるだろう。
−−「論壇時評:公明党めぐる論議 理念と政策に溝、本質は=中島岳志」、『北海道新聞』2016年06月01日(水)付夕刊。
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活発化する「公明党」論 政権後押しか、歯止め役か 複雑なバランスと政治過程|【西日本新聞】