覚え書:「書評:昭和の東京 映画は名画座 青木圭一郎 著」、『東京新聞』2016年05月15日(日)付。

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昭和の東京 映画は名画座 青木圭一郎 著

2016年5月15日
 
◆82館をめぐる見聞録
[評者]浦崎浩實=映画評論家
 著者名にハハ〜ンと頷(うなず)かれる向きは本書の最も理想的な読者となろう。二十一歳九カ月余で事故死した日活スター赤木圭一郎のあやかり(青木は本名)。時代を遡及(そきゅう)し、名画座という共同空間に敬意と郷愁が捧(ささ)げられた本である。
 紹介されている名画座は八十二館で、内十二スクリーンは現役。これで東京の名画座のすべてではないと断っているが、名画座以外の系列館や同地域の映画館にも言及し、実際に登場する館名はこの何倍。各劇場の来歴、同館で著者が観(み)た作品一覧、立地の地誌的記述、見聞したエピソードと実に内容豊富で、それは映画館を介した自己検証にもなっている。
 渋谷シネパレスを経営する三葉(みつば)興業の二代目社長に評者は仕えた期間があるが、創業者の事績を本書で初めて知り、隣に渋谷西武ができる際の土地を巡る同社の踏ん張りが今にして得心がいった。徳川夢声との邂逅(かいこう)も貴重な記録。
 改めて名画座を思う時、それは映画会社・配給会社が封切館や二番館などで収益を上げた後、安くフィルムを供した慈善興行だったのだろう。国立近代美術館フィルムセンターが遠慮がちに取り上げられているが、私見では(料金面で)名画座と呼べるのはもはやここだけかと。
 なお、自由が丘の武蔵野推理劇場は旧・新宿武蔵野館地下にあった館名の甦(よみがえ)りで、新宿屈指のレトロな名画座だった。
 (ワイズ出版・2376円)
 <あおき・けいいちろう> 1949年生まれ。CMや音楽ビデオの映像編集者。
◆もう1冊
 中馬聰著『映画館』(リトルモア)。映写技師が日本各地の名画座やオールドスタイルの映画館を訪ねた写真集。
    −−「書評:昭和の東京 映画は名画座 青木圭一郎 著」、『東京新聞』2016年05月15日(日)付。

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青木 圭一郎
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