日記:山口智美・能川元一・テッサ・モーリス・スズキ・小山エミ『海を渡る「慰安婦」問題 右派の歴史戦を問う』(岩波書店、2016年)から浮かび上がる日本政治の反知性的暴走……反知性、そんな生易しいものではない。
山口智美・能川元一・テッサ・モーリス・スズキ・小山エミ『海を渡る「慰安婦」問題 右派の歴史戦を問う』岩波書店を読んだ。本書は「歴史戦」が、安倍政権、外務官僚まで総ぐるみの右派運動の仕掛けであり、諸外国から顰蹙を浴び、彼らがいうところの「国益」を損じていることを明らかにしている。
— 斉藤正美 (@msmsaito) 2016年7月11日
安倍政権が巨大な勢力となった現在、安倍政権のアキレス腱である、日本の植民地主義や戦争責任を否定する歴史修正主義がどのような背景から生まれ、どのような思惑と戦略が込められているかを検証した本書は必読である。安倍政権の弱点を突き止めるためにも本書を多くの人が読むことを薦めたい。
— 斉藤正美 (@msmsaito) 2016年7月11日
「歴史戦」とは、「中国、韓国、および『朝日新聞』が日本を貶めるために、歴史問題で日本を叩こうと「戦い」を仕掛けている、そして今、その主戦場がアメリカ」である」(p.酛)という言論の「戦い」を指すという。仕掛けたのは、彼らが「敵」とみなす勢力であり、自らは被害者という位置づけだ。
— 斉藤正美 (@msmsaito) 2016年7月11日
だが、能川元一氏の「「歴史戦」の誕生と展開」は、大量に流布するゆえ「事実」と誤解しがちな「歴史戦」言説は、実は「論証において怪しくとも、熱心、かつ声高に、さらには確信的に自説を唱えるのが有効である」(佐瀬昌盛教授、p.9)という戦略により右派が仕掛けた言説運動であるというのだ。
— 斉藤正美 (@msmsaito) 2016年7月11日
「日本側から、「熱心、かつ声高に、さらには確信的に自説を唱え」ることによって歴史認識「対日包囲網」を突破しようとする戦いこそが、「歴史戦」なのである」(p.10)とする右派運動は、被害者と見せかけているが、実は右派が野心に富んだ言説運動を自ら仕掛けたものなのである。
— 斉藤正美 (@msmsaito) 2016年7月11日
仕掛ける媒体は、『産経新聞』や『正論』が中心であるが、論証に基づかなくとも「確信的に」「唱え」ればよいという「戦略」を打ち出しているのは学者であることも本書では明らかにされており、興味をそそられる。
— 斉藤正美 (@msmsaito) 2016年7月11日
安倍政権との密着ぶりも興味深い。第一次安倍内閣時、「情報戦」という言葉が使われ、外国人の歴史認識を突破するには「学問的検証に加えて、いかに学問がそういう内外の政治的思惑を乗り越えていくかという自覚的な取り組みをしていかなくいけない」(p.10)と政治運動としての決意が示されていた
— 斉藤正美 (@msmsaito) 2016年7月11日
第二次安倍内閣時代には、今度は「歴史戦」や「歴史戦争」と名付け、「強い日本へ——さらば、「心の戦後レジーム」」という特集を組むなど、歴史認識問題で安倍政権をもり立てようと、大攻勢に出ている。すなわち、「歴史戦」というのは、安倍政権のために仕掛けられたプロパガンダなのである。
— 斉藤正美 (@msmsaito) 2016年7月11日
この書により、安倍政権のプロパガンダの仕組みが解明されたことは、極めて重要な意味を持つ。 安倍政権のアキレス健の一つが丁寧に解析され、その弱点も晒されている。それをどのように使って、対抗方法を組み立てるかが今、我々に問われているのだと思う。
— 斉藤正美 (@msmsaito) 2016年7月11日
まだ能川さんの第一章を紹介しただけであるが、後は追って書いていきたい。この書の重要性に気づかされたのが、たまたま安倍政権が改憲三分の二を勝利したターニングポイントであったことに意味があるのかもしれない。この機会にこそ、ぜひ多くの人が本書を読まれ議論が盛んになればと願う。
— 斉藤正美 (@msmsaito) 2016年7月11日
また、ここまでは、国内政治にのみ言及したが、この「歴史戦」という仕掛けのせいで最も大きな被害を被っているのは、植民地主義や戦争の被害者の方がたである。未だに解決していないのみならず、繰り返し、中傷され、否定され、いないことにされているのであるから。この状況を変えないといけない。
— 斉藤正美 (@msmsaito) 2016年7月11日
『右派の「歴史戦」を問う』本は、1)日本を、中国、韓国、朝日新聞という「反日」勢力から狙われた「被害者」であるとするのは右派勢力が仕掛けた虚構のプロパガンダであること、2)このプロパガンダは安倍政権を反日の中国、韓国に対抗する「強い政権」として打ち出してきたこと、を暴いています。
— 斉藤正美 (@msmsaito) 2016年7月11日
amazon軍事部門で1位の人気を博する『海を渡る「慰安婦」問題』いわゆる「歴史戦」本であるが、2章小山エミの章で重要なのは、ネットでよく言われる、海外在住日本人が慰安婦像設置後に「日本人いじめ」が多く勃発しているという件を調査し、一件も実態がなかったことを報告していることだ。
— 斉藤正美 (@msmsaito) 2016年7月13日
小山エミ@emigrl は、報道されているグレンデール市について、現地の警察・学校・教育委員会、他のさまざまな機関や民間団体に問い合わせたが、何の連絡も通報も報告されていなかったことを明らかにする。さらに、デマの蔓延こそが、関東大震災時にもあった差別的なデマを連想させると言う。
— 斉藤正美 (@msmsaito) 2016年7月13日
『海を渡る「慰安婦」問題』は、海外に在住する著者らが海外で「慰安婦」問題を否定したり否認したりと暗躍する日本政府の意を汲む外交官の活動をつぶさに知る機会があり、そうした実態を丁寧に報告している。私たちは、これを読み、それがいかに顰蹙を買う行動であるかがわかり、慄然とするわけだ。
— 斉藤正美 (@msmsaito) 2016年7月13日
このように『海を渡る「慰安婦」問題』では、海外に在住する著者らが海外で「慰安婦」問題を否定したり否認したりと暗躍する日本政府とその意を汲む外交官のしていることを丁寧に報告し、それがいかに顰蹙を買う行動であるかを報告している。
— 斉藤正美 (@msmsaito) 2016年7月13日
国内に住む私たちも、「日本の名誉」のために行われているそうした行動をきちんと知っておく必要があるとつくづく思わされた。知れば知るほど、「誇り」や「国益」のためにということでなされていることのあまりのお粗末さに、気分が暗くなってくるのであるが、、。
— 斉藤正美 (@msmsaito) 2016年7月13日
『海を渡る「慰安婦」問題』の感想、つづき。歴史学者であるテッサ・モーリス・スズキさんの3章は、ケニアでの虐殺事件や、インドネシアで「慰安婦」にされたオハーンさんの物語を挿入することで読者の感情を揺り動かしつつ、その主張を伝えようとしていると感じられた。
— 斉藤正美 (@msmsaito) 2016年7月13日
テッサさんの章で最も興味深い問いは、「戦後生まれの人々にも先行世代が行った戦争や不正義に対する責任や謝罪の義務は存在するのか」(P.73)という問いとその答えを示す部分だった。
— 斉藤正美 (@msmsaito) 2016年7月13日
「実際に手を下ろしたことではないにせよ、過去の不正義を支えたその問いの答えは、「差別と排除の構造」が現在も生き残っているのであれば、私にはそれを是正する責任が確実にある」(P.74)というものだ。
— 斉藤正美 (@msmsaito) 2016年7月13日
なぜなら「過去の憎悪と暴力、歴史的な嘘に塗り固められた差別と排除は、現在も社会の中で生き残り、再生産されていくのだから」(P.75)という理由を、テッサさんは、ケニアの虐殺を忘れない記念碑、オーストラリアのアボリジニー、インドネシアで慰安婦にされたオハーンさんの例を引いて述べる
— 斉藤正美 (@msmsaito) 2016年7月13日
大正期にヒットした「籠の鳥」という娼家の女性を歌った歌の詩を紹介して、戦時「慰安婦」が世界の人々の定義によればどの角度から見ても「性奴隷」であるとしか言えないことを述べている部分は、圧巻であった。ぜひ『海を渡る「慰安婦」問題』お読みいただきけたらと思う。
— 斉藤正美 (@msmsaito) 2016年7月13日