覚え書:「くらしナビ・学ぶ 政治活動届け出制に反発も 愛媛の全県立高、校則変更し導入」、『毎日新聞』2016年05月23日(月)付。

Resize2540

        • -

くらしナビ・学ぶ
政治活動届け出制に反発も 愛媛の全県立高、校則変更し導入

毎日新聞2016年5月23日 東京朝刊

※福岡市は検討中、大阪市は対応を決めていない。神戸市は市立高が不要と判断し、北九州市は市教委が市立高と相談して不要と判断。熊本市は「現時点で不要」。相模原市は市立高がない。

 18歳選挙権の実現に伴い、文部科学省は高校生の校外での政治活動を容認した一方、「必要かつ合理的な範囲内」での制限や学校への事前届け出制も認めた。愛媛県では県教委が政治活動への参加を1週間前に担任に届け出る校則を例示し、59ある全ての県立高校が校則を変更して届け出制を取り入れた。足並みをそろえて事前届け出制を導入した例は他になく、波紋を広げたが、背景には、生徒の管理を巡る学校と地域の関係もあるようだ。

 「届け出制は思想信条の自由に反する。集会に参加することは届け出ていない」。憲法記念日の3日、松山市内であった護憲派の集会に参加したある県立校の男子生徒はそう断言した。


高校生の政治活動について文部科学省が出した通知やQ&Aの文章
 全県立校の事前届け出制は県内で反発を呼んでいる。「憲法が保障する思想、信条に関わる問題」などとして、県内の大学教授や弁護士、市民団体などが届け出制撤廃を求める要請書や法的根拠を問う公開質問状を県教委や各高校に相次いで提出した。県教委によるとこれまでに抗議の電話が数十件あったという。

 愛媛県個人情報保護条例は思想、信条に関する個人情報の収集を禁じており、県教委は届け出の際に政治的信条を問わないよう学校に要請したという。ほとんどの学校が生徒に口頭で届け出るようにしているといい、県教委はこれまで実際に届け出があったのかどうかを把握していない。

 ●生徒は冷めた目

 ただ、当の高校生には冷めた見方が目立つ。ある女子生徒(18)は「学校で説明を受けたが『ふーん』という感じ」。別の女子生徒(17)は「学校に届け出ることの何が問題か分からない」。

 ある男子生徒(18)は「選挙には行こうと思っているが、政治活動に興味がある同級生なんていない。届が出ることはないと思う」と語った。「届け出が面倒とは思わない」と話す男子生徒(17)もいた。

 松山市内の県立高に勤める20代の男性教諭は「授業や行事を休むことにつながる活動に参加するなら把握しておきたい。届け出制にすることに違和感はない」と話した。

 生徒のプライバシーに配慮し、届け出る内容を制限する学校もある。西条高(西条市)は(1)活動の日時(2)満年齢(3)集会か、選挙運動か−−の3点を担任に口頭で伝えることとした。石崎学校長(58)は「生徒の政治参加をなるべく阻害しないため、最低限の項目にした。生徒からの問い合わせなどはまだない」と語った。

 ●地域の風土影響

 今治西高(今治市)は政治活動に参加する旨のみを担任に口頭で伝えることとした。高橋正行教頭(59)は「主権者教育が進んで自己判断ができるようになれば、放課後や休日の届け出は不必要になってくるのではないかと、個人的には考えている」と話す。

 愛媛大教育学部の鴛原(おしはら)進教授(社会科教育)は全校が届け出制にした理由について「愛媛は伝統的に高校に対する地域の期待が大きく、学校側もそれに応えようとする意識が強いと感じる。学外での行動に関しても、本来は地域がすべきだが、愛媛は学校が指導する文化がある。『把握することが仕事』と考える風土が影響しているのでは」と分析。「届け出制導入は家庭と地域の力が弱いことの証明でもある」と指摘した。【橘建吾、成松秋穂】

学校か教委か 責任所在あいまい
 高校生が校外の政治活動に参加する場合、事前届け出制を取り入れるかどうかを判断するのは学校なのか、教育委員会なのか。この点ははっきりしない。今年1月に文科省が作成した教育現場向けの「Q&A」は「必要かつ合理的な範囲内の制約を受ける」として事前届け出制を容認。その上で届け出をした生徒の政治的信条の是非を問わないなどの「各学校等」の配慮が必要になるとした。最終的には届け出制にするかは学校の判断とも読める。

 一方、馳浩文科相は今年1月4日の記者会見で届け出制について「国公私立問わず、基本的には各都道府県の教育委員会、学校法人など、あるいは国立大学法人が所管しているので、任せたい」と述べた。文科省児童生徒課の担当者は「教育委員会や学校に混乱を招くことを意図したものではない。届け出制にするかどうかは各学校が適切に判断するもので、公立の場合は、都道府県教委の判断を踏まえることになるのは制度上当然だ」と説明する。公立の場合は都道府県教委の判断に沿うことになるというわけだ。

 だが、毎日新聞が47都道府県と20政令市の教育委員会に事前届け出制について取材したところ「教委としては不要と判断しているが、最終的には学校の判断に委ねる」とした教委が13あった。

 林大介東洋大助教政治学)は「文科省のQ&Aは届け出自体を禁止するものではないとしているだけ。教育委員会が判断してもいいし、学校が判断してもいいということだ。地方分権の中で何でもお上に伺いを立てるのではなく、自治体が主体性を持って判断することが大切だ」と話している。【高木香奈】

高校生の政治活動の規制
 文部科学省が場所を問わず高校生の政治活動を禁じたのは1969年。政治や大学のあり方に不満を持った学生による大学紛争の影響が高校にも及び、授業の妨害などが相次いだためだった。昨年6月に選挙権年齢を18歳以上に引き下げる改正公職選挙法が成立したため、昨年10月に69年通知を廃止し、校外での政治活動を認める新たな通知を各都道府県教委などに出した。校内の政治活動は教育基本法が定める学校の政治的中立性確保のため禁止している。
    −−「くらしナビ・学ぶ 政治活動届け出制に反発も 愛媛の全県立高、校則変更し導入」、『毎日新聞』2016年05月23日(月)付。

        • -


くらしナビ・学ぶ:政治活動届け出制に反発も 愛媛の全県立高、校則変更し導入 - 毎日新聞





Resize2512

Resize2108