覚え書:「売れてる本 18歳からの民主主義 [編]岩波新書編集部 [文]市川真人(批評家・早稲田大学准教授)」、『朝日新聞』2016年07月03日(日)付。

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売れてる本
18歳からの民主主義 [編]岩波新書編集部
[文]市川真人(批評家・早稲田大学准教授)  [掲載]2016年07月03日

■運命を他人任せにしないで

 「初めての選挙で投票をするみなさんとともに、民主主義とは何か」「どうすれば実践できるか」を考える本書は、畢竟(ひっきょう)、執筆陣も論の対象も様々だ。政治学や経済学等の学者からジャーナリスト・元防衛官僚・アイドル・学生・主婦・小説家まで十八〜一〇一歳の共著者が、各自の得意分野で民主主義を(ときに大幅に脱線しつつ)めいめい語る声は、多様と呼ぶにせよバラバラと見るにせよ“ハウツー”的な明快さからは縁遠い。ただ若者に届けたいなら、本文横組みの何倍もの工夫があらまほしいが、作り手と書き手の真剣さと熱を本書に読み取り、わかりづらさも(民主主義とはそんなものだと)企図のひとつと捉えれば、本書の言う“民主主義の多様さと豊かさ”とはこの雑多と熱のことだと、納得できる。
 だが/だからこそ、本書の熱が「十八歳」に本当に届くか否かは、とても大事だ。大学生の四五%が読書ゼロとの報道やネットとの利用比率を踏まえれば、本書の部数は第一に大人たちの「読ませたい」欲望の結果であると捉えるべきで、だとしてそのとき「読めば伝わる」と手渡して終わっては、この国のリベラルが過去、自身の正しさへの願望と民主主義への信頼を混同して「選挙にみなが行けば」と信じてばかりきた態度と変わらない。
 トランプの躍進や英国のEU離脱など今世紀の歴史は、かつての願望や信頼が美しくも危うい夢だったと、人々に感じさせ始めている。その先にあるのはむろん、階級や民族など、うんざりする対立たちの再燃だ。
 いま必要なのは、民主主義の理念を再検証し、改めて「どうすれば実現できるか(できないか)」を考えることだ。その第一歩は、ただ手渡して終わりではなく渡す側自身が本書に向き合い、雑多な声から自分の声と響くものを探して渡す相手に届ける“交通と対話=コミュニケーション”が必要である。「自分の運命を他人任せにしない」ことが民主主義の核心だと語る上野千鶴子の一節を、僕ならあなたに届けるだろう。
    ◇
 岩波新書・907円=2刷2万5千部 2016年4月刊行。活字を横組みにし、特別なカバーを施した。担当編集者は「普段の読者層とは違う若い層に届いている実感があります」。
    −−「売れてる本 18歳からの民主主義 [編]岩波新書編集部 [文]市川真人(批評家・早稲田大学准教授)」、『朝日新聞』2016年07月03日(日)付。

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