覚え書:「書評:化粧の日本史 山村博美 著」、『東京新聞』2016年07月24日(日)付。

Resize2721


        • -

化粧の日本史 山村博美 著

2016年7月24日
 
◆文化を映して移ろう
[評者]和田博文=東洋大教授
 日本人の化粧はどのような文化的特性を持ち、どのように変化してきたのだろうか。化粧の範囲は広いが、本書は中心をメイクアップにしぼることで、通史を描き出すことに成功している。
 歴史は以下の三期に分けられる。(1)大陸風の化粧が流通する平安前期まで(2)日本の伝統的な化粧が成熟する江戸時代まで(3)欧米風の化粧が一般化する現在まで。日本の伝統的な化粧は、白・赤・黒の三色である。このうち中国や朝鮮半島になかったのはお歯黒。化粧したのは女性だけではない。平安後期には公家の男性に、やがて身分の高い武士に、化粧が広まっていく。戦国時代の島津家ではお歯黒が日常の身だしなみになっていた。
 化粧の目的は美だけではない。化粧には身分・階級・年齢・未既婚などの、社会的表示機能が備わっていた。江戸時代の化粧は、女性が基本的な担い手。白い歯と眉は未婚を、お歯黒は既婚を、眉剃(まゆそ)りは子持ちを意味していた。婚期を逃した女性は世間体から、お歯黒にしたという。幕末に来日した西洋人は、異国のお歯黒と眉剃りに後ずさりした。
 団塊の世代は、西洋的なメイクを大衆化させる。ただ私たちが驚くのは、本書が明らかにする古い時代の情報だろう。現在の化粧のモードも、時代と文化に規定された、過渡的な表象にすぎないことを、歴史が教えてくれるからである。
 (吉川弘文館・1836円)
 <やまむら・ひろみ> 1961年生まれ。化粧文化研究家。共著『世界の櫛(くし)』など。
◆もう1冊 
 ポーラ文化研究所編『明治・大正・昭和の化粧文化』(ポーラ文化研究所)。美容・化粧・髪形などの変遷をたどる。
    −−「書評:化粧の日本史 山村博美 著」、『東京新聞』2016年07月24日(日)付。

        • -




http://www.tokyo-np.co.jp/article/book/shohyo/list/CK2016072402000186.html



Resize2190