覚え書:「【書く人】居場所求め「個」の闘い 『ジニのパズル』 作家・崔実(チェシル)さん(30)」、『東京新聞』2016年08月14日(日)付。

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【書く人】

居場所求め「個」の闘い 『ジニのパズル』 作家・崔実(チェシル)さん(30)

2016年8月14日


 「この小説は、いま居場所がないと感じている人たちにも、読んでほしい」
 そう話す崔実さんが紡いだのは、自らと同じ在日コリアンの少女ジニの物語。群像新人文学賞に応募すると、「素晴らしい才能がドラゴンのように出現した!」「現代を考え直させてくれる力を持つ傑作」と満場一致で受賞が決定。芥川賞候補にもなり、選考会では「作品の持つ熱量が素晴らしい」と評価された。
 北朝鮮のミサイル発射が伝えられた翌日、朝鮮学校の制服チマ・チョゴリを着た中学生のジニは、繁華街で男たちに暴力を振るわれる。作家の多和田葉子さんいわく「いつ暴力にさらされるか分からない者だけが知る緊張感」が全編を貫く。
 ジニは一人で「革命」を起こそうと思い立つ。北朝鮮独裁政権への批判が高まれば、日本で危険にさらされるのは朝鮮学校に通う子どもたちだ。そうしたためた声明文を教室でばらまき、金日成・正日親子の肖像画を外して外へ放り投げる。
 結局、「革命家の卵」にもなれずに満身創痍(そうい)で米国に留学するが、そこでも退学処分になりかける。世界のどこにも居場所がない。そんなジニがたどり着くのは−。
 崔さんは中学一年のとき、東京の朝鮮学校に一年間通った。「脱ぐ?」と男子生徒に話し掛けられて仰天し、朝鮮語の「ヌグ(誰)?」だと後で気付く場面は、自身の経験でもある。「朝鮮学校にもいろんな子がいる。いっしょくたにせず、個人個人を見てほしいと思った」と話す。
 主人公は自ら考え抜き、蛮勇とも思える行動に出る。日本社会の卑劣な差別に傷つき、北朝鮮の実情を知って無批判でいられない。欺瞞(ぎまん)に満ちた体制と対照的なその思想は、まっすぐに光を放つ。
 ふだんは販売の仕事をしている。二十代前半で二回文学賞に応募したが、どちらも一次選考を通らなかった。三十歳の誕生日を間近に控え、一念発起した。寝る間も惜しんで一気に書き上げたのが本作だ。
 自らデザインしたTシャツを着こなす。ホットパンツからは長い足がのびる。米国産の駄菓子の山を前に「お菓子中毒なんです」。子どもの時、お話をつくって家族や友達に聞かせるのが好きだった。公園のベンチでホームレスの人と談笑することも。そんなのびやかな感性で次作の構想を練っている。
 講談社・一四〇四円。 (出田阿生)
    −−「【書く人】居場所求め「個」の闘い 『ジニのパズル』 作家・崔実(チェシル)さん(30)」、『東京新聞』2016年08月14日(日)付。

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