覚え書:「【東京エンタメ堂書店】戦争の実相に迫る3冊 報道の視点から探る」、『東京新聞』2016年08月15日(月)付。

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【東京エンタメ堂書店】

戦争の実相に迫る3冊 報道の視点から探る

2016年8月15日


 ちょうど30年前、私は「戦争を取材したい」と考え、新聞記者を職業に選びました。学生時代に、18世紀のドイツの哲学者カントが著した「永遠平和のために」などの平和論を勉強する中で、戦争の実情を知りたいという思いを強くしたためです。以来、旧ユーゴスラビア戦争、パレスチナ紛争、イラク戦争などの現場を見る機会を持ち、平和について考えています。第2次大戦終戦から71年の8月15日にあたり、ジャーナリズムの視点から戦争の実相に迫ろうとした3冊をおすすめします。 (外報部デスク・嶋田昭浩)

◆責任回避
 先週、「原爆」をテーマにした本が紹介されましたが、私もまず<1>半藤一利湯川豊著『原爆の落ちた日 決定版』(PHP文庫、一〇八〇円)を推します。日本の敗戦が決定的となって、戦争が一日長引けばそれだけ多くの人命が失われる状況が明らかであるにもかかわらず、日本の指導者たちが決断を先送りし、ついには原爆投下という破滅につながる日々が、再現されています。
 自分の責任における重大な決断を回避しようとするのは、今日の日本の政界やさまざまな組織にもはびこり続ける弊害だけに、歴史から学びたいものです。

◆情報操作
 二十世紀後半に朝鮮戦争と並ぶ甚大な人的被害を出したベトナム戦争で、米政府がいかに誤りを犯して泥沼に陥ったかも、振り返らなければなりません。
 <2>デイヴィッド・ハルバースタム著『ベスト&ブライテスト 中巻 ベトナムに沈む星条旗』(二玄社、一八三六円)は、戦場となったベトナムからの客観的な情勢報告が軍上層部によって握りつぶされ、しかもワシントンの当時のケネディ政権が楽観的声明を出す「PR活動による戦争」によって事態が悪化していく経緯を、活写しています。ベトナム戦争前後の国際情勢に詳しくない場合は、上巻から読み始めるのがいいでしょう。

◆対テロ戦
 現代の戦争では<3>ボブ・ウッドワード著『オバマの戦争』(日本経済新聞出版社、二五九二円)が挙げられます。対テロ戦の名目で米中央情報局(CIA)などが行う秘密作戦を題材にした政権内幕物です。
 米国での出版直後、米情報機関の元トップに直接、読後感を聞くと「退屈だった」。現実の極秘工作はもっとすさまじいよ、と言いたいのでしょうが、この本に書かれているだけでも十分に興味深い内容です。
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◆原典批判
 番外編として<4>石原莞爾(かんじ)著『戦争史大観』(中公文庫、782円)はいかがでしょう。書かれたことをうのみにするのでなく、テキストを批判的に読み込むのも大切な読書です。同じ著者の『最終戦争論』が有名ですが、宗教観が前面に出ていることもあり、むしろ戦争史大観の方が軍事的主張が明解な気がします。
 旧日本陸軍の軍人だった石原は、東条英機を無能呼ばわりした異色の関東軍参謀として知られます。欧米の軍事哲学に精通し、将来の原爆の出現を予想していたとも言える石原独自の軍事論。その主張のどこに問題があるかを考えるのは、有益なことでしょう。
    −−「【東京エンタメ堂書店】戦争の実相に迫る3冊 報道の視点から探る」、『東京新聞』2016年08月15日(月)付。

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http://www.tokyo-np.co.jp/article/book/entamedo/list/CK2016081502000162.html


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