覚え書:「著者に会いたい 『日本の居酒屋−−その県民性』 太田和彦さん [文]木元健二」、『朝日新聞』2016年06月12日(日)付。

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著者に会いたい
『日本の居酒屋−−その県民性』 太田和彦さん
[文]木元健二  [掲載]2016年06月12日

太田和彦さん(70)=早坂元興撮影


■風土への思い、ぬくもり込め

 30年ほど前から全国で居酒屋探訪を続けてきた。古い店の片隅で一杯やりながら地元の客の話に耳を傾ける。「酒を飲む人々から県民性がくっきり見えてきた」と言う。無口に長く飲む東北の人、男性も女性も盛大に飲む高知の人。よく飲む土地柄といっても酔った様子はそれぞれだ。
 岩手県の県民性に心をひかれるという。人の話をじっくり聞いて自らのことは控えめに語る。飲んでいると、自分を見つめる気持ちにもなってゆく。実りの秋にはマツタケなどでなく、様々な「雑きのこ」をいただきながら。
 「小さな遠い町」島根県益田市で、とても郷土色の強い居酒屋を見つけた。開いたばかりの生きたアユからつくった「うるか」に、自家製豆腐、採れたての山菜。逸品を口にしながら、桃源郷に来たように思った。
 「グルメ本にはしたくなかった」といい、47都道府県それぞれの人口や気候、特産品の特徴が添えられている。水のうまい富山での逸話、日本海の海岸線の美しさといった各地の情景も織りこまれる。自身が育った長野の居酒屋の「進歩」の理由も探った。
 グラフィックデザイナーとして、若い頃から時代の半歩先をとらえようと努めてきた。しかし約30年前に独立した頃から、変わらないものがいとしくなってきた。「庶民の心が裸になる」居酒屋のよさに気づいたのも、その頃だ。以来、多くの居酒屋についての著作を出した。
 居酒屋探訪は、どこか登山と似ているという。名店だと思えば、季節を変えて2度、3度と足を運ぶ。そこに宿る魅力の源泉を探り、風土に思いをはせる。そして見えてきた県民性にはぬくもりがある。
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 朝日新書・821円
    −−「著者に会いたい 『日本の居酒屋−−その県民性』 太田和彦さん [文]木元健二」、『朝日新聞』2016年06月12日(日)付。

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