覚え書:「「大宅壮一文庫」赤字続く ライター支える「雑誌の図書館」」、『朝日新聞』2016年05月31日(水)付。

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大宅壮一文庫」赤字続く ライター支える「雑誌の図書館」
2016年5月31日

貴重な雑誌を手に書架を案内する黒沢さん

 雑誌の図書館として知られる「大宅壮一文庫」(東京都世田谷区)が、赤字運営を続けている。マスコミ関係者の利用が多く、出版市場の縮小やインターネットの普及で来館者が減っているためだ。4月からは資料のコピー代を約15年ぶりに値上げした。

 「赤字軽減とデータベースの改修にお力添えいただきたくお願いいたします」。京王線八幡山駅から徒歩数分。地上2階、地下2階建ての大宅壮一文庫の入り口には、コピー代の値上げ(白黒が52円から54円)に協力を求める「お知らせ」が張り出されていた。

 文庫は評論家の故・大宅壮一氏(1900〜70)の遺志で、氏の雑誌コレクションを元に71年、自宅跡地に開館した。「一億総白痴化」や「恐妻」など、数々の造語を生み出した大宅氏は博覧強記で知られ、雑誌を中心に約20万冊を収集。55年のインタビューで、自身の蔵書についてこんなふうに答えている。「僕は本を集めるんでもだな、図書館にあるような権威のあるものは集めないんだよ。つまらん本ほどいいんだ」

 蔵書は出版社の寄贈で年に約1万冊ずつ増え、現在は明治以降の雑誌約1万種類、77万冊を収蔵。個人で利用する場合、入館料300円を払うと10冊まで閲覧でき、必要なページはコピーも頼める。創刊号などの貴重な雑誌を直接手にとって閲覧できるのが魅力だ。

 また、雑誌の記事は話題になった事件や事象別に分類。「犯罪・事件」「サラリーマン」など33の大項目に分かれ、犯罪・事件はさらに「暴力団」「汚職・疑獄」などの中項目、暴力団の中には「政・財・芸能界などとの関係」といった小項目が並ぶ。小項目は計約7千、キーワードとなる人名は約14万人分。年々増え続けている。

 同文庫によると、寄贈を受ける年約1万冊のうち、約400誌の計約4500冊はスタッフが記事本文に目を通し、データベースの検索用に計約20万のキーワードを抽出するという。

 ■職員削減、索引作り難航

 同文庫は、立花隆氏が74年に発表した「田中角栄研究」の資料集めで利用したことから存在が知られ、2000年度まで利用者は増加。同年度の閲覧冊数は78万3211冊に上った。だがその後は減少に転じ、14年度は60万8111冊、収支は約4千万円の赤字となった。00年ごろ50人以上いたスタッフも、15年度は5人減らして31人に。それでも2千万円台の赤字となる見込みという。

 事業課の黒沢岳さんは「ベテランのスタッフでも1冊の索引作りに丸1日かかる。ギリギリの態勢」。これまで赤字分は積立金を取り崩して運営してきたが、来年からはデータベースの改修も始まり、初期費用と5年間の維持費に1億4600万円が必要になるという。「4月になると後輩に利用方法を教えるマスコミ関係者を目にしたが、近年は見なくなった」と黒沢さん。利用者増を狙って14年から、無料で書架を見学できる「バックヤードツアー」を月1回実施。今年4月のツアーに参加した女性(44)は「古くからの雑誌が詰まった文庫は貴重な存在。ぜひ続けてほしい」と話す。

 人物もののルポを書くときなどによく利用したというルポライター鎌田慧さん(77)は「20〜30年前は雑誌もライターも多く、熱気があった。今はライターの活躍の場も、生々しいルポも減った。文庫利用者の減少はジャーナリズム衰退の表れなのかもしれない」と語る。

 大宅壮一氏の三女で大宅文庫理事長の評論家・大宅映子さんは「ネットで情報収集する今の人は『わざわざ文庫まで行かずとも』という思いなのだろう」と推し量る。「しかし手間をかけて雑誌を調べ、索引を作っている文庫では、目的に合う雑誌を的確に探し出せる。実際に雑誌を手にすることで思いがけない情報との出会いもある。常識の幅を狭くしないためにも一度足を運んで」と話す。

 (塩原賢)
    −−「「大宅壮一文庫」赤字続く ライター支える「雑誌の図書館」」、『朝日新聞』2016年05月31日(水)付。

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http://www.asahi.com/articles/DA3S12384609.html





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