覚え書:「【書く人】心の針 振り切れる恋愛 『La Vie en Rose ラヴィアンローズ』作家・村山由佳さん(52)」、『東京新聞』2016年08月28日(日)付。

Resize2804

        • -

【書く人】

心の針 振り切れる恋愛 『La Vie en Rose ラヴィアンローズ』作家・村山由佳さん(52)
 
2016年8月28日
 
 二度の離婚を経験している。「シンプルに言うと、モラハラ(モラル・ハラスメント=精神的暴力)の被害者でした」というかつての結婚生活の記憶をこの小説に投影した。「最初は自分から離れたフィクションにするつもりだったんです。でも書くうちにずっとわだかまっていた問題がぼろぼろとでてきた」
 主人公の咲季子は、美しい庭のある自宅でフラワーアレンジメント教室を開き、本を出すほど人気の「カリスマ主婦」。だが幸せそうに見える暮らしの陰では、夫に人格や才能を否定され続け、縮こまっていた。仕事内容や行動を制限する命令にも従ってしまう。
 「私も同じような感じだったんです。彼はずっと、俺がいないとお前は書けないというスタンス。支えてもらった面もたしかにあるのが難しいところで。自分は愚鈍でダメな人間なんだ、と信じていました」
 男性を立てるという意識もどこかにあり、思ったことを言えない関係だった。「今でも身近な人の感情を波立たせるよりは、私が我慢するほうを選んでしまう」。そんな自分との「決別の書」のつもりで書き進めたという。
 咲季子と夫とのいびつな暮らしは、一人の男性の登場で急変する。「夫婦関係は一対一の密室。外からの目が入らないと、なかなか崩せないですよね」
 村山さん自身は、夫との別居、離婚に至る過程で「だんだん目が開かれていった」と振り返る。そしてそのころから作家として、大きな進化を遂げた。性遍歴を重ねる女性主人公を描いた『ダブル・ファンタジー』は二〇〇九年、柴田錬三郎賞などをトリプル受賞。以降「自分のことだと思われても構わない」という執筆姿勢で、迫力ある作品を次々と生み出してきた。「こういう<黒ムラヤマ>は、元夫は大嫌いだった。反動もあったかもしれません」
 デビュー以来、作品の軸に恋愛があるのは一貫している。今作でも、モラハラだけではなく、男女関係のさまざまな局面をリアルに浮かび上がらせている。ときめく出会い、相手に失望するきっかけ、思わず殺意を抱く瞬間も。「心の針がレッドゾーンまで振り切れる状況に、興味があるんです。それが最も日常的に起こり得るのは恋愛だと思う。そういう意味で、恋愛を書いています」
 集英社・一六二〇円。
  (中村陽子)
    −−「【書く人】心の針 振り切れる恋愛 『La Vie en Rose ラヴィアンローズ』作家・村山由佳さん(52)」、『東京新聞』2016年08月28日(日)付。

        • -





http://www.tokyo-np.co.jp/article/book/kakuhito/list/CK2016082802000193.html








Resize2357


La Vie en Rose ラヴィアンローズ
村山 由佳
集英社
売り上げランキング: 2,787