覚え書:「くらしの明日 私の社会保障論 奨学金という名のローン=中央大教授・山田昌弘」、『毎日新聞』2016年06月01日(水)付。

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くらしの明日
私の社会保障論 奨学金という名のローン=中央大教授・山田昌弘

毎日新聞2016年6月1日 東京朝刊
 
山田昌弘中央大学教授
 

 日本では、経済的困難などの理由で奨学金をもらう学生が増えている、という話をアメリカの大学教授の友人にしたら、けげんな顔をされた。なぜそれが問題なのか、と。

 若年層の所得がのびず、卒業後、奨学金の返済が困難になる若者も増えていると説明すると、今度は「おまえの言っている奨学金スカラシップ)というのは、教育ローン、つまり借金なのでは」と言われてしまった。

 アメリカで「スカラシップ」といえば通常、成績優秀者に対して、学業に専念してもらうために給付される返済不要なものをいう。一方、卒業後、返済しなければならないものは「教育ローン」、つまり借金であると意識される。

 アメリカの大学、そして大学院の授業料は信じられないほど高い。それを負担できる親は少ない。結果、多くの学生は教育ローンを借りることになる。

 あるメディカルスクール(大学院レベル。日本の医学部に相当)に通う医学生は、借金が2000万円を超えたと言っていた。それでも大学や大学院に進学するのは、大卒と高卒の収入格差がアメリカでは極めて大きいからだ。日本では約1・4倍だが、アメリカでは2倍以上に上り、院卒との格差は更に大きくなる。

 うまく一流大学を卒業し、高給の職に就けたら、ローンの返済は可能だが、できないと借金地獄が待っている。大学進学が一種のギャンブルと化しているようだ。

 ただ、大学も優秀な学生を確保するために、奨学金を充実させている。だから奨学金をもらうために、大学のレベルを落として入学する学生もかなりいる。

 アメリカでは、大学の内部で裕福な親をもつ学生(中国やロシアからの外国人留学生も多い)から、成績優秀な貧困家庭出身の学生への再配分が行われているともいえる。

 日本で多くの学生が受けている日本学生支援機構の「奨学金」と言われるものは、有利子であろうが、無利子であろうが、返済が必要であり、その意味では「教育ローン」である。

 そして日本でも、アメリカと同じような状況が生じている。それは、学生の親の平均収入が低下し、学費を全部負担できない親が増えていること。その結果、教育ローンに頼らざるを得ない学生は増大し、進学を諦めざるを得ない高校生も出ていること。そして、正社員や正規の公務員など安定した職に就けず、借金を返済できずに破綻する卒業生が増えていることである。

 たとえ正規雇用で働いていても、借金返済がその後の人生に影を落とす。

 ある学生が「奨学金をもらっている人と結婚してはダメ。結婚後の生活が苦しくなるよ」と親に言われたとリポートに書いてきた。

 この話を別なところでしたら、正社員の若者から「僕も彼女も奨学金をもらった。返済のめどがつくまで結婚して子どもを育てるなんて無理だと話し合っている」と聞いた。

 実のところ、教育ローン問題と日本の結婚難や少子化は結びついているのだ。(次回8日は孫大輔さん)
    −−「くらしの明日 私の社会保障論 奨学金という名のローン=中央大教授・山田昌弘」、『毎日新聞』2016年06月01日(水)付。

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