覚え書:「憲法を考える:自民改憲草案・『保守』の論理:下 票にならない、語らない」、『朝日新聞』2016年06月09日(木)付。

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憲法を考える:自民改憲草案・「保守」の論理:下 票にならない、語らない
2016年6月9日

 6月1日、安倍晋三首相の記者会見。多くの関心が消費増税先送り表明に注がれるなか、私は、憲法改正について首相が何をどう語るかに注目していた。

 「この選挙においても、我々は憲法改正草案を示していますが、『これをやりますから3分の2になるために賛成する人は誰ですか』ということを募っているわけではありまの続きせん」

 あれ? ずいぶんあっさりしているではないか。

 そんな首相の姿勢を反映してか、自民党が発表した参院選の公約も、憲法については最後にさらりと触れるのみ。

 「各党との連携を図り、あわせて国民の合意形成に努め、憲法改正をめざす」

 自民党改憲草案に込められた思いに、「あえて」寄り添ってきた私としては、なんだかはしごを外された気分だ。

 草案は、自民党的「思想」の総括ではなかったのか。ならばなぜ、堂々と有権者に示さないのか。憲法改正への思いはその程度のものなのか――。

 自民党議員が憲法改正を真正面に掲げ、有権者に訴えているとは思えませんが?

 草案のとりまとめ役で、現在は党憲法改正推進本部副本部長を務める礒崎陽輔参院議員にそう問うと、「慎重になっているだけでしょう。党からも『慎重に発言をするように』という指導は出ているようだ。慎重に、と」という答えが返ってきた。

 憲法は、票にならない。

 記者になって13年、選挙期間中はとにかく政治家の動向を追ってきた。わかりやすいこと。聴衆にウケがいいこと。選挙に落ちればただの人、1票でも多く獲得したい政治家は、難しい議論や、批判をあびかねないテーマを敬遠しがちだ。

 朝日新聞社が4、5両日に行った参院選連続世論調査で、投票先を選ぶときにどの政策を重視するかたずねたところ、「憲法」は10%。憲法改正の是非について世論は割れており、さらに安倍政権のもとでの改憲に警戒感が高まっていることは、各種世論調査をみても明らかだ。

 だから、語らない。

 選挙戦術としては「正解」かもしれない。だが、国民に新たな義務を課そうとする政治家の態度としては、どうなのか。「保守」は「保身」とは違うはずだ。

 「憲法改正の『よい』というところの最大公約数を見いだすのが自民党の仕事だ。極めて現実的にやらないといけない」

 礒崎氏は、選挙後の道筋をこう描く。「3分の2」を獲得し、改正できる環境が整えば、変えやすいところからの改正へと突き進んでいくのだろう。

 「ここを、こういう理由で、こう改正したい」。そんな主張を聞くことがないまま、参院選の結果いかんによっては、国民は憲法改正の土俵にあげられかねない。

 今月22日、参院選が公示される。しっかりと見ておきたい。自民党議員が、憲法について何をどう語るのか。そして、選挙では語らなかったのに、選挙後に冗舌に語り出す政治家は誰なのかを。

 (石井潤一郎)

    ◇

 「保守の論理」編はこれで終わります。次週は「ハンガリーで読む」編を掲載する予定です。
    −−「憲法を考える:自民改憲草案・『保守』の論理:下 票にならない、語らない」、『朝日新聞』2016年06月09日(木)付。

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http://www.asahi.com/articles/DA3S12400218.html


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